②恋「ん。――足は平気か?」
「…気付いておられたのですか」
「連れ立って歩いている途中、歩幅が乱れていたのでな。無理に連れ出してすまなかったな」
「慣れない格好で少し歩き過ぎたせいですよ」
ふぅ、と疲労をにじませた息をひとつ吐いた鉢屋は近くにあった木に身を寄せると、足首を固定していた紐を解き、足袋と草鞋を脱ぐ。ところどころ藁で擦れたのか、鉢屋の真っ白な脚は赤くなっていて血が滲んでいる傷もある。懐から取り出した手拭いを歯で裂いている姿に見とれてしまうが、鉢屋の手から即席の包帯を奪って片膝を地面につき太ももを叩く。
「私がやろう。ほら、ここに足を乗せるんだ」
「服、汚れますよ」
「鉢屋」
「――…はい」
いつものふざけた感じを潜めて名前を呼べば、諦めたのかゆっくりと傷だらけの足が差し出される。掴んで太ももの上に導けばやはり躊躇するのか、僅かに力が籠り引こうとする。
それをぐっと引き寄せて、膝裏までを下から撫で上げれば「ひっ」と喉を引きつらせた声が上から零れてくる。
「悪戯をされたくなかったら大人しく乗っけておくんだな」
「……たちが悪い」
それ以降は大人しくなった鉢屋の両足に即席の包帯を巻き終えると、鉢屋は即座に足を抜き離れたところで足袋と草鞋を身に着け始める。
「包帯を巻いたとはいえ、そのまま帰ったのでは悪化しそうだな」
「しませんよ」
素っ気なく返されるが、細かいことは気にしない。
「よし、おぶって帰ってやろう」
「っ け、けっこうです!」
ぎょっとして慌てた鉢屋はくるりと踵を返すと学園の方向に向かって走り出した。
「ふむ。こっちの方がよかったか」
「ちがっ!そうでは、なく――ああっ」
痛みはなさそうだが普段通り走れないのか、あっという間に追い付いてしまった。
そのままの速さで鉢屋を素早く横抱きにすれば、悲鳴を上げながら咄嗟に両手で顔を覆い隠した。
「叫んでもいいが、舌は噛むと痛いぞ」
「わかってます…っ!せめて、学園の門より前には、下ろしてくださいっ」
「はは、承知した」
手や足を触った時は暖かいな、くらいだった鉢屋の体温は一気に上がっているようで、支えている背中が熱を出しているかのように熱い。それに、隠しきれない耳も夕日に負けないくらい真っ赤に染まっていた。そういえば、この耳は本物だったな。
「ヒッ!な、七松先輩っ」
「ああ。すまん、すまん」
腕の中の鉢屋の肩がびくりと戦慄いた。無意識のまま真っ赤な耳に口を寄せてしまった。顎が掠めた頬はやはり仮面のようで硬い感触だったが、唇で触れた耳は柔らかく生きている熱を感じた。
ちょうど門が見えたところだった為そっと下したが、瞬きをひとつした後にはすでにいなくなっていた。
瞬きをする瞬間、一瞬だけ見えた顔は真っ赤に染まり、目は潤んでいたように見えた。