③秘めたる笑みカタン、と静かに背を預けたと思った引き戸が音を立てた。
「三郎、おかえり」
「………ただいま」
中から漏れる油灯の光で雷蔵が中にいることはわかっていたが、自分がどんな顔をしているかわからないまま中に入ることは憚られた。そのため、少しだけ風に当たってから、と思って背を預けた引き戸だったが、勝手に音を立てて中の住人に帰りを報せた。
観念して中に入れば、普段の忍者服を纏った雷蔵が油灯の光の下で読書をしていた。
「もうすぐ夕餉だね…って、三郎その顔は、どうにかしたほうがいいよ」
「わかっているよ……」
自分の机に伏せて置いておいた手鏡を覗き込めば、仮面で隠れている顔以外が日焼けでもしたかのようにほんのり色付いていた。油灯の光のせいかもしれない、と思いたかったが、仮面の内側がじんわり熱を持っていたためそんな思い込みも不可能であった。
「井戸の水で冷やす?」
「…そうだな、そうしよう」
手鏡を見ながら無意識にため息が零れる。雷蔵が眉を八の字に下げながら手拭いを差し出してきたので、ありがたく受け取ると自分も普段の忍者服に素早く着替えて立ち上がる。
「うん。そうしたら、僕が近くで誰か来ないか見張っているから、仮面も外しちゃわない?」
「………そう、だな」