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    新一死亡からの逆行/シリアス
    記憶あり降谷×記憶なし?ショタ新一

    ##小説

    逆さまの天国(プロローグ)「最後に誰かに発信してますね。うーん…電話帳に名前が……ないな。登録してないのか」
    「誰の番号でしょうか?」
    「暗記してたと言うことは、よほど親しい間柄か……知られたく無い相手、かしら」

    降谷の後ろで話す見知らぬ警官たちの声が、ぐわんぐわんと響いて遠くなる。代わりに心臓が耳元にあるように鼓動が煩い。
    証拠品として入れられたビニール袋越しに触れる新一のスマートフォン。その画面に映る数字の羅列を、降谷は知っていた。
    今となっては、降谷だけが知っていた。

    元々公安が探っていた案件から黒ずくめの組織の末端だった人物へと繋がり、この事件に辿り着いたこと。更に現場に降谷が居たことで公安預かりになったのだが、被害者と顔見知りが故に、降谷は捜査チームからは外されてしまった。
    被害者家族や関係者、親しい友人や憎きFBIの男への接触さえ制限された中で、降谷は不気味なほど淡々と与えられた仕事をこなす。
    右腕である風見さえ「あの事件は夢だったのでは?」と錯覚するほどに、降谷は普通であった。
    彼と会わずにいた数年間と同じように、生きているように見えた。



    誰にも教えたこともなく、誰にも教えるつもりもない秘密基地のような部屋に、降谷は居た。
    長い潜入任務が終わり、顔や名前で使い分けていたセーフハウスを全て引き払って“降谷零”へと戻った今は、ハロとセキュリティ万全の公用マンションに住んでいる。なので、この七畳ワンルームのアパート一室は、全くの個人的な所有物である。

    たまにふらりと立ち寄るせいか、少ない日常品はあれど生活感はまるで無い。ただ置かれているだけの、作られた部屋のようだ。
    ガシャンと頼りない玄関の鍵を閉めると、降谷は小さな押入れ収納の天井部分、手前のベニヤ板をズズッと持ち上げ右手を突っ込む。手探りで目的の物を掴むと、元の場所へベニヤ板を直した。
    隠していた、なんの変哲も無い市販のマイナスドライバーを片手に、敷き詰められている畳の一つへと足を向ける。馴れた手つきで畳の縁へ垂直にマイナスドライバーを突き立て、グッとテコの原理で作った空間に掌を差し込み、そっと慎重に持ち上げた。
    唯一拘った厚めのカーテンの隙間から、夕焼けの赤が覗き込み、塵がチカチカと舞う。暗い部屋での唯一の光が、降谷の手元を照らす。
    わざとらしく乱雑に散らばる古新聞の中で、微かに膨らむ部分へと手を伸ばす。掻き分けた其処には、折り畳みの携帯電話と充電器がお行儀よくビニール袋に仕舞われていた。

    名探偵にどうしてもと強請られて教えた連絡先である携帯電話は、もう使っていない。
    何故あの時、別名義や支給されたスマートフォンではなく、この使う予定もない携帯電話の番号とメールアドレスを告げたのか。今更理由がわかってしまい、息苦しさが増す。
    随分と長い間、解約しなくてはと思いながら、既に彼しか知らない端末だからと、そのままにしてしまっていた。
    毎月引き落とされる同じ数字だけが、己とあの子を繋いでいる気がして。充電もせず、端末を見ることもせずにそのままだ。

    久しぶりの充電だからか、それとも古くなった端末だからか、コンセントに繋いでも立ち上がりが遅い。
    その少しの時間さえもどかしく、窓側の壁に背中を預け、畳に置いた携帯電話の真っ黒な画面に光が灯る瞬間を、微動だにせず待ち続ける。
    恐ろしい程の静寂に身を委ね、息を殺す。

    「……」

    やっと立ち上がった端末に、細かく震える指で暗証番号を入力する。今度は腕ごと震えたので、押さえ込むように両手で包むように眩しい画面を見た。
    一件の着信。
    誰からなんて言うまでもない。

    「ッ!」

    ヒュウッと喉が変な音を立てて息を追い出した。
    額から吹き出た汗が米神を伝い、目尻から眼球へと流れ込んでくる。目元が痙攣してピクピク煩い。
    さっきまで静かすぎて痛かったのに、騒がしくて吐き気がする。

    今更知ったって何の意味もない。
    折り返しの電話だって遅すぎる。
    彼以外の人間が出たって意味ないのに。
    保管された証拠品にそんな危険な真似をすることは、降谷の立場が許されない。
    彼を、彼の幸せを守るための立場だった筈なのに。皮肉にもその場所から眺める事だけが、降谷に出来る数少ない許された行為だった。

    逆流してくる胃液をぐぅっと抑え込み、着信番号を何度も自分に確かめる。
    親指で一桁ずつなぞっても、何度画面を擦っても、それは間違いなく彼の番号だった。

    これが目を閉じた罰なのだろうか。
    彼が縋った最後の希望さえも見て見ぬ振りしてしまった。
    あの子から、世界を、命を、掬いとってしまった。

    「……」

    幼馴染、親友、仲間たち、そして愛した人。もう誰も降谷の番号を知らない。
    この携帯電話は、生きている人間の誰にも、もう繋がってはいない。
    降谷零は、また置いていかれてしまったのだ。
    いや違う。自分を守る為に、繋がりたいと差し出された糸を自らの手で切ったのだ。
    まるで祈るように握り締めている、この両手で。


    ◇   ◇   ◇


    いつの間にか、眠りの国へ旅立ってしまったらしい。開いていた本に栞を挟んでベッドサイドテーブルへ置き、ランプの灯りを少ししぼる。
    すぅすぅと上下する小さなお腹が冷えないように、はだけたタオルケットをそっと掛け直した。

    「おやすみ、僕のかわいい新一くん」

    枕元の温かな光に縁取られたまろやかな頬に優しく口付けて、柔らかな髪に包まれた頭部を撫でる。
    江戸川コナンの年齢に届かない小さな身体や、当時の偽りの姿に比べて圧倒的に歳相応のヤンチャぶりが、降谷は愛しくて仕方がなかった。前回は味わえなかった時間だ。

    「きみは、思い出さなくて良いからね」

    暗示のように耳へ吹き込む。刻みつけるように、何度も、何度も鼓膜を揺らす。
    声に合わせてゆったりと頭を撫で、米神から頬を辿り、確かめるように鼻と口元に手をかざす。呼吸に安心して熱い首筋に手を這わし、幼い胸に耳を当てた。
    ちゃんと心臓の音がする。
    ほぅっと、詰めていた息を吐き出した。

    「思い出したらいけないよ」

    そう、何も思い出さなくていい。

    部屋に吊るされた血液パックが衝撃で破れ、頭から浴びて唇へと伝い広がった君の血の味。
    細切れにされた君の欠片はとっくに体温を無くし、抱き締めた塊たちから感じたのは冷たい皮膚の感触。
    一部分が砕かれて粉にされた、白く滑らかな骨の色。
    頭部だけは祭壇のシンボルのように仰々しく冷凍庫に飾られ、美しい花に囲まれた甘さに混じって香る死の匂い。
    君から何の音も聞こえない。無音。

    今のきみは何も知らないままでいい。
    例え僕が、きみも知らない君の骨の太さや色、濁った海の瞳の色を知っていたとしても。

    「僕が絶対に幸せにするからね」

    きみのための王国を作ろう。
    前の君が出てこないように。
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