12時36分
『本日はご予約の方のみへのご提供となっております』
とボードが下がった扉を押す。カランと音を立てて開いたその向こう。いらっしゃいませ、とここ数ヶ月で顔馴染みとなった女性店員に笑顔で出迎えられた。外の寒風に晒されていた耳がじわじわと暖まりこのまま溶け出しそうな気さえしてくる。
「ご予約の方ですか?」
「はい、」
予約してたロロノアです。とここ数ヶ月で初めての言葉を紡ぐ。
「こちらへどうぞ」
案内する店員の向こうのカウンターの奥。長い金髪を項で束ねた男がちらりとこちらを向いた気がした。
「24や25は仕事か?」
「どうした急に」
師走に入りたての頃、通い慣れたパスタ屋で会計をしていたら店長であるキラーにそう尋ねられた。毎朝のジョギングで通り掛かってから通うようになって数ヶ月。随分と馴れ馴れしくなったものだと思う、お互いに。
「ちょっと気になっただけだ。警官ともなればやっぱりクリスマスも駆り出されるんだろ?」
笑顔を崩さずにキラーが尋ねてくる。脳内の予定表を見返せばその日は確か。
「そうでもねえ。24は泊まり明けで休みが取れた」
クリスマスイブに休みとなったゾロへ向けられた恋人持ちからの羨望に内心呆れたのは内緒だ。ともに過ごす恋人はいないし、本来クリスマスはそういう行事ではない。代わりに年末は働くのだからそれでチャラになるものだろう。
「……じゃあ何か予定はあるか?」
一瞬声が固くなったように聞こえたが気の所為だろうと切り替える。ゾロの予定がキラーにどう影響するというのだ。ただの友人、にすらまだなっているか怪しいというのに。それにクリスマスやその前日が恋人がいちゃつく口実になるのはゾロとしては若干遺憾である。何故なら。
「夜に仲間内での誕生日祝うくらいだよ」
クリスマスイブは大事な友人の一人の誕生日なのだ。日にちが日にちだから集まれないメンバーもいるが、この日には仲間みんなその友人で祝うことになっている。
女友だちとプレゼントの鞄を見に行った時に「彼女さんへのクリスマスプレゼントにこちら如何ですか」と高めの鞄を売り付けられそうになった苦い記憶が蘇る。同行した友人が欲しがりそうだったものだからなおのこと。
「出来るもんなのか? みんな次の日は仕事だろ?」
「影響が出ない程度には切り上げるよ」
「お前にそれが出来るとはあまり思えないが」
「うるせえな」
酒が飲めると言う言葉につられて昼食だけでなく夕食もここで取ったことがある。その時にキラーに酒呑みだと知られてしまった。たかがワインと日本酒を数本空けただけだというのに。