12/30 13時24分待合室の隅から入り口を眺める。増え始めた人の中から緑色の頭を探せば、意外とすぐに見つかった。
「こっちだ」
声を出したことで一瞬周囲の視線が集まるが、すぐに皆また戻す。
「よく迷わないで来れたな」
えらいと頭を撫でてやれば鬱陶しげに払われる。
「先生が送ってくれた」
「なるほど、次会った時にはおれからも礼を言っておく」
入る直前に後ろを向いて頭を下げたのはそういうことかと一人納得する。改札口からここまで一直線とはいえ、それを逸れるのがゾロという男だ。そのゾロが幼い頃から世話になってる道場の師範代ともあらば当然それを知らないはずもない。
先生へのお土産は奮発するかと密かに決めたキラーの内心など露知らず、ゾロが重たげなリュックを隣に下ろす。
「売店で酒買ってきていいか」
「向こうまで我慢しろ」
全く油断も隙もない。列車が来るまで後20分あるが間に合わなくなる可能性もある。ケチケチしやがってと唇を尖らせる姿はキラーにとって愛らしいが、それとこれとは話が別だ。
「美味いもん食わせてやるから、な?」
「……わかった」
素直に頷いたので内心胸を撫で下ろす。とりあえず懸念事項の一つがなくなったのは良かった。
帰省に恋人を連れていくと告げた時の幼馴染たちの驚きようを思い出す。陰湿や卑怯とは程遠いこの恋人は幼馴染と相性は悪くない筈だが、如何せん初めての顔合わせであるので油断は出来ない。キラーにとって家族同然の彼らと恋人がいがみ合うことがないようにと気を揉むばかりだ。まるで結婚前の挨拶のようだと幼馴染が言ってきた時は否定したが、いざその時になるとどうしてもそう意識せざるを得なかった。
「お前の地元の友だちについてだが」
考えていたことを言い当てられたかのようでドキリとする。
「土産は酒でも大丈夫か」
何事かと思えばそんなことかと安堵する。
「お前ほどではないが人並みに飲める奴らだよ」
「なら良かった。」
もし駄目ならおれが全部飲むところだったと笑ったのはきっと冗談ではない。
「独り占めするなよ」
「さあな」
酒を他人を分けるのを嫌う男がわざわざ気に入りのを持ってくるなんて相当気合いが入っている証拠だ。案外なんとかなるなと思いながら時間が来るのを待った。