DKに金銭要求された話①仕事帰り、男は一人の青年に声をかけられた。
「なぁ、おっさん。・・・・なぁって!」
「ん?・・・あぁ、俺か。なんだ?疲れているんだが」
「だよな。顔に疲れたって書いてあるし。疲れているおっさんに俺がイイコトしてやるよ。だから代わりに金ちょーだい?」
男子高校生のような風貌で、よく見ると服にほつれや汚れが見える。
——見た目から察するに家出少年・・・・いや、家出青年か?どちらにせよ未成年がこんな時間までフラフラしているとは、悪い奴らに目をつけられても文句言えないぞ。
「……分かったよ」
疲れた表情とは正反対のはればれとした笑顔で青年に腕を引かれながら男はホテルへと入っていった。
※
「いやぁ〜〜お客さん凝ってますねえ〜」
「そうなんだよ〜。仕事がなかなか辛くてさぁ〜〜」
男はベッドの上で青年からマッサージを受けていた。その手つきはとても慣れたもので、的確に筋肉のツボを押してくる。
かなり気持ちいい。
思わず声が出てしまうほどに。
「はい、マッサージ終了。続きは風呂に入ってからな」
「一緒に入らないか?」
「いやいや、おっさん仕事で疲れてるしゆっくり入ってくれよ。俺はその後でいいから」
「そうか。悪いな」
男が風呂に入る姿を見送ると、青年は男の鞄から財布を取り出しホテル代以外の現金を取り出し自分の財布に捩じ込んだ。
「悪いなはこっちのセリフだっつーの」
青年は音を立てないよう注意しながら足早にホテルを後にした。
「はーっ、いい湯だった・・・て、アイツ!やりやがった!!」
広いベッドはいつの間にやらもぬけの殻。おまけに財布にはホテル代が払える程度の金銭しか残っていなかった。何もすることがないのなら長居することもない。
「大人をからかいやがって・・・。意地でも見つけ出してやるからな!!・・・・あ」
手早く着替えると床に落ちていた意外な手掛かりを片手に男はホテルを後にした。
※
「さーて、今日はどうするかな」
学校終わりの下校中、青年は人通りの少ない路地を歩いていた。今日は誰をカモにしようか考えていると、1台の黒い外車が横を走り少し先の方で停車する。大方道に迷ったのだろうと思い、構わず青年が歩いていくと見計らっていたと言わんばかりに扉が開いた。運転席からおりてきたのは鮮やかな赤色の髪をした髭面の男。青年が以前相手をした男だった。
「なっ・・・!?」
「よぉ、奇遇だな。“ポートガス・D・エース”くん?」
「お、まえ・・・、どうして・・・・・」
「これだよ。お前、詰めが甘いって言われないか?」
「あー!俺の生徒手帳!どうして持ってるんだよ?!」
男が見せてきたのは青年が数日前に無くしたと思っていた生徒手帳だった。
「お前がホテルの部屋で落としてたのを拾ったんだよ。あの時はよくも金だけ取って騙したな」
——ヤバい。こんなこと、今までなかったのに!
大人しく言うとおりにするならこれは返してやるよ、と生徒手帳を見せびらかせる男について行く以上エースと呼ばれた青年には何も出来ない。分かった、と承諾すると案内された助手席に乗り込んだ。