ロアとリ夫婦の出会い「すみません。もう少しで到着すると思うんですけど」
クガネの黄金通りの小料理屋の一室でミコッテ族の女性が困った顔でヴィエラ族の若い男性と話していた。
「クガネは道が入り組んでますからねぇ〜。迷われるのも無理ないですよ」
「いえいえこちらの不手際で⋯⋯何かあったのかしら」
ミコッテ族の女性が思い悩んでいると、
「大丈夫ですよ。このへんは治安が良いので迷っても聞けば誰かしら教えてくれますし。それにしても、羨ましいなぁ⋯」
「え?」
「いえ、僕独り身なんで。ザフラさんみたいな優しいに奥さんに心配してもらえる旦那さんは幸せものだなぁと思って」
「あらっ⋯うふふ、ロワさんったらお若いのにお上手ね」
ヴィエラ族の男性の名は『ロワ』クガネを拠点とする若き商人である。
「ますますお会いするのが楽しみになってきました」
ロワはそう言ってニコニコと笑顔を浮かべたが、内心とても緊張していた。
というのも、これから会うのは噂に聞きしリ・アルド・ヌン氏。エオルゼアのウルダハを拠点とする有力組織の長である。
アルド氏は野心あふれる男で、数年前に秘書としてリ氏の組織に潜り込み、前ヌンの一人娘を手込めにし、組織を乗っ取ったと界隈で噂になっていた。
目の前のミコッテ女性はまさに手込めにされたと言われる『リ・ザフラ』氏。ロワは下手なことを言わないように慎重になる。
ロワにとっては善人、悪人どんな誰であれ商売相手は商売相手だ。
実の親を早くに亡くし、裕福とは言えない家庭で育ったロワは、商売相手に合わせて自身を着飾り、魅せ、それを武器にすることで今やクガネの豪商と言われる立場までのし上がってきた。
本日ロワが演じるのは、オーダーメイドのスリーピーススーツを纏い、爪と革靴は磨き上げ、髪を少しかき上げた石鹸の香りを振りまく清涼感のある好青年。ミコッテ族やロスガル族を良い気分にするという乾燥させた微量のウンカイツルをポケットに仕込むのも忘れていない。
この手法だと相手によって180度印象を変えて演じ分けねばならないこともあり多大なストレスを伴うのだが、商談の成功は第一印象で決まるのだということをロワはよく知っていた。これだけのことでうまくいくならば安いものだ。相手をできるだけいい気分にさせて信用を底上げし、利益を最大限引き出させる。それがロアの仕事の流儀だった。
数分後、コンコンと部屋の扉からノック音が聞こえた。
「あ、来られたかな? はーい!」
遂に噂の人物とまみえるのかとロワが息を呑み、扉をゆっくり開けて迎え入れると、そこに居たのはキューバシャツにハーフパンツ、サンダル姿のミコッテ族の中年男性だった。ミコッテ族の男性は特徴的なオッドアイの瞳で部屋の中をチラリとのぞき見ると、小さな声で「しまった」と言った。
(観光客か? 部屋間違えたんやろか?)
「あの、迷われたんですか? お手洗は出て右の端ですよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
明らかに困っているミコッテ男性にロワがそう伝えると、ミコッテ族の男性がペコリと会釈したのでこちらも会釈を返し見送ろうとしたその時──
「あなた。ふざけているの?」
ザフラ氏がミコッテ族の男性に向かってそれはそれは静か声で呼びかけた。
「え??」
ロワとミコッテ族の男性が固まっていると、ザフラ氏がにっこり笑って言った。
「お待たせして大変申し訳ありませんロワさん。こちらがわたくしの夫、アルドですわ」
その美しい笑顔はブリザガを放つかの如く冷え冷えとしている。
「あ⋯⋯えと、はじめまして遅れて申し訳ありません。リ・アルドと申します」
「あ、はい。はじめまして。ロワと申します。お気になさらず⋯⋯」
ロワとアルド氏がぎこちなく挨拶を交わしていると、ザフラ氏がニコニコしながらアルド氏の隣に来る。
「ロワさんすみません。申し訳ないのですが5分ばかりお待ちいただけますか?」
ザフラ氏はロワにそう告げると「表に出なさい」と小さく言い、アルド氏のパーカーを引っ掴みズンズンと歩いていく。アルド氏は首根っこをつままれた猫のように無抵抗だ。一瞬そのオッドアイと目が合うが、その目には助けをこうような悲壮感が滲んでいた。
リ夫婦が部屋を出て数分後、20メートル先ぐらいの方角で声が聞こえてきた。
(何話しとるんやろ)
ヴィエラ族の耳の良さを舐めてはいけない。耳を澄ませてみると、ザフラ氏がアルド氏をマシンガンのごとくどちゃくそに叱りつけていた。
(なんやこれおもろすぎる)
長い耳が更に長くなりそうな面白い展開に胸が躍り、ロワは更に耳をそばだてた。
「どうして私が用意した服を着て来なかったの」
「したって⋯(だって⋯)」
「だって⋯?なによ言ってごらんなさい」
「⋯⋯スーツ、ごったくせぇから(スーツは窮屈だから)あとで着ようと思って」
「あとでですって?! 商談前に相手に見られててもおかしくないのよ! 『商談はまず第一印象から』その窮屈な服が相手にどれだけ好印象を与えられると思ってるの。それをあなたよくもまぁこんな裸みたいな服で⋯! せっかくあなたに似合うのを仕立ててもらったんだから──うんたらかんたら」
(はい!はーいそうです!!そのとおりですザフラさん。僕もそう思いまーす!)
ロワがザフラ氏の考えにうんうんと首を縦に振っていると、
「裸じゃない⋯⋯」
と、アルド氏の声が小さく聞こえてきた。
(え?!おいおい嘘やろアルドさんやめとき。女性が怒っとるときは口答えしたら──)
「何か言った?」
「⋯⋯いえ、なにも」
(ほれみたことか〜)
ロワは心の中でツッコミを入れながらもニヤニヤと笑いが止まらない。その後も叱り続けるザフラ氏に対して、
「んだ⋯んだ⋯⋯めやぐした(はい⋯はい⋯ご迷惑をおかけしました)」
と、アルド氏はただひたすら小さく返事をしていた。
そうして、リ夫婦の会話を一通り聞いていたロワには一つ気づいた事があった。
(アルドさん、めちゃくちゃ訛っとるなぁ。僕と一緒や)
アルド氏はとにかく訛っていた。ロワ自身もプライベートになると訛りが出るため一気に親近感が湧いたのだった。
そうして商談が始まる前の一悶着はあったが、ロワとアルドの初顔合わせはとても有意義に行われた。
商談中のアルド氏は口数は少ないがなかなかの切れ者で、将来目指す方向性もロワと似ていた。
そして話を進めるうちにアルド氏がリ氏の財産と娘を乗っ取ったという噂も全くのデマ実際はピュアな恋愛結婚だった事がわかった。その話を教えてくれたザフラさんの幸せそうな顔といったら⋯⋯今思い出せば商談5割、ノロケ5割ぐらいの割合ではなかっただろうか。
だがノロケ話で「ねぇ、あなた」とザフラ氏から笑いかけられる度、アルド氏は耳を伏せてしまっていた。妻の説教でよっぽどまいってしまったらしい。それが面白おかしくて仕方がなかった。
こうしてロワのアルド氏への第一印象はおもしろ叱られおじさんとして定着したのだった。
〜数年後の商談でのやりとり〜
🐰「──と、まあうちはこんな感じの計画で行こうと思っているのでそのへんはお任せします。アルドさんのことだ。そこらへんは抜かりないはず」
🐈⬛「きみは私のことを買い被りすぎてないか?」
🐰「ああ!そういえば僕と初仕事の時に服装失敗して奥様にこっぴどく叱られてましたね」
🐈⬛「⋯⋯」
🐰「ビックリしましたよ〜あの時はあなたがリ氏の組織を乗っ取ったって噂だったんで警戒してたのに、あんなの見せられたら⋯⋯ぶふぅっwww」
🐈⬛「さぎねー!ねっちょふけぇ!!(うるさい!しつこいぞ!)」
🐰「ぶわははは!!思い出しただけでも腹いたぁwww僕何見せられとるんや思いましたわwプギャーwww」
(関西系訛りのうさおとつがる系訛りのオジッテ)
〜相手に対するそれぞれの印象〜
【ロワ→アルド】
体裁を気にせずに気楽に話せる数少ない相手。
初対面でのやらかしをみてしまったので、この人相手になら自分を飾る必要がないと判断。反応が面白いので弄りたくて仕方ない。商談の前は常にウキウキ。歳下の特権を使って色々仕掛けては楽しんでいる。
最初はアルドのことを面白いおっちゃんと思って懐いていたが、酔った姿を見たきっかけでLOVEへと変わる。リ夫婦の強固な絆を知っており夫婦2人とも好き(いわゆる推し)なので自分が介入するのは解釈違い。とはいえアルドをどうこうしたいという欲求はあるので妄想の中だけで留めている。
【アルド→ロワ】
初対面でやらかしたのを見られ弱みを握られている。散々ネタにされたり弄られているが息子と同年代なので父性も感じておりあまり強く言えない。若くして豪商となった手腕と度胸は素直に尊敬しているが、歳下の特権を発動されると甘やかしたくなるので勘弁して欲しい。ロワから向けられている感情には全く気づいていない。
【ザフラ→アルド&ロワ】
夫のアルドが絶対に自分以外の相手には靡かないと分かっているので嫉妬はしない。実際に手を出されそうだと判断したら全力で阻止するスパダリ嫁。
ロワがアルドに向ける好意には気づいているが、ロワのことは信頼しているので特に口出しはしない。