アストランティアお題 花言葉から「愛の渇き、星に願いを」
「あ、流れ星!」
特異点攻略中、夜食を終えたところで藤丸が声を上げた。視線を追えば次々と白い線が空を横切っていく。
「しかも流星群だあっ!すごく綺麗だね」
「そうですね先輩!通信が繋がっていれば、皆さんに見て頂けたのですが」
「そこは仕方ない。後でどれだけ綺麗だったか話せるようにしっかり見ておこうよ」
「はい!」
藤丸とマシュが嬉しそうに笑い合う声を聞きながら酒をあおる。漆黒の空を彩る幾重もの星の軌跡はインドラからしても多少見応えがあった。
祈りを感じて藤丸へ目を戻せば、存外気の抜けた表情で空を見ている。
「ん、どうかしましたか?」
「……今、何を願った」
「そういうの分かるものなんですか?」
「誰に聞いている。神々の王が人間の祈りと願いを感じれずにどうするというのだ」
「なるほど」
自分への祈りであれば内容も分かる故、気が向けば叶えてやったものを。
睨めつけてやるも藤丸は笑みを崩さない。本当に肝の太いやつだ。
「流れ星にお願いごとをすると叶うんですよ」
「そんなものに頼らずともおまえには神が居るだろうが」
「ふふふ、あなたにお願いするには些末なものなので(それに、本人に願うのはちょっとね)」
隣に居る自分を差し置いてあんなモノへ願うなど失礼極まりない。最後の方は口の中で何やらモゴモゴ言って聞き取れなかったことも気にかかる。
そんなにもインドラへ望みを聞かせたくないのだろうか。
藤丸がいやに楽しげなことにも苛立ちが募り、粗野な舌打ちが漏れる。
急激に下がる気分に比例して眉間へも皺が寄ったが、藤丸の視線は完全に流星へ奪われており気づきもしない。
そのことにも腹が立つが、これ以上騒いで狭量だと思われるのも矜持に関わると言葉を飲み込む。
(クソッ、落ち着け。あんなものに嫉妬などしていては王の威厳が損なわれる)
クールダウンするために酒をもう一杯飲み干すが、いっこうに気持ちは上向かなかった。
何も知らずに笑っている少女が恨めしい。いっそ無理矢理口を割らせてやろうか。
「インドラ様も一緒にやってみませんか?流れ星が消えるまでにお願い事を3回唱えるんですけど、けっこう難しいんですよ」
「やらん!前にも言ったはずだ。神々の王であるこの神は他のモノに願ったりなどしない」
星ごときではどれだけ些細なものであろうと、インドラの願いを叶えるには値しない。それは、特異点へ赴いた原因となっている聖杯にしても同じことだ。
(ああ、だが。こいつにならば、あるいは奥底へ沈めたこの渇きも)
隣に座る少女を見て、つい浮かんだ思考を瞬時に打ち消す。
どうやら酒が回り過ぎたらしいが、それにしても神が一瞬でも、人へ願いを向けるなどあってはならないこと。とんだ与太話だ。
ヴリトラにでも知られようものならば永遠に愚弄され続けるに違いない。
王としてこれ以上の醜態を晒すわけにはいかないと立ち上がる。
「おい、神はもう寝るぞ。警戒はヴァジュラたちにさせてやるから貴様らも早く休め」
「はーい」
元気の良い返事に背を向け、呼び出した愛象の背へ寝転がるが、どうにも眠気は訪れない。下では藤丸たちが星空鑑賞を止めゴソゴソと寝場所を整える音が聞こえる。
文句ありげにチカチカ瞬く星屑たちを見上げ、インドラは大人げなく中指を突き立てた。