アレカヤシお題 花言葉から「元気」
アルジュナオルタが自室を訪ねてきた時、インドラは、今日も口内を貪られるのだと憂鬱になった。
アルジュナオルタは日頃から、魔力が枯渇すると無理矢理口づけをしてくる。本人曰く、『貴方の魔力が心地よいので』とのことだ。
親を見て口を空ける雛鳥のようなものなのだろう。
(とはいえ、親子としてこれはどうなんだ?)
口を合わせる度、存外真っ当なインドラの倫理観が疑問を投げかけてくる。
もう一人のアルジュナも毎回止めようとしてくるし、阻止失敗の度苦しそうに胃を押さえていた。インドラとしても、アルジュナが身体を壊す前には、なんとかこの給餌もどきを止めさせたいとは思う。
しかし、バーサーカー故の燃費の悪さでアルジュナオルタは慢性的に魔力へ飢えている。そんな息子を憂慮しているのも事実だ。
結局、『子供には元気で健やかに居て欲しい』という親心が勝ち、インドラは接吻を受け入れ続けていた。
アルジュナオルタには先日、『人前ではしないように』と口酸っぱく言い含めたので、恐らく、これ以上もう一人の息子を煩わせることはないはずだ。
(仕方がない、此度も付き合ってやるか)
アルジュナオルタが近づいてきたのに合わせて酒を消す。以前宴会の途中でされた時盛大に服へぶち撒けさせられた。失態を二度演じるわけにはいかない。
魔力で編んでいる玉座に腰掛けるインドラを、アルジュナオルタが静かに見下ろす。
両肩へ腕が置かれたのでインドラは目を閉じ、軽く上を向く。顔に影が差すのに少しだけ身体へ力が入った。
ちゅっ
「……?」
鼻先に仄かな感触とリップ音。思わず目を開けば間近にある息子の猫目と視線が合わさる。
「私ばかり求めているものと思っていましたが、貴方も期待して頂けていたようで、喜ばしいです」
「…………っ!?な、なにを言う!神は期待など……」
アルジュナオルタの言葉を受け、インドラは自身の行動を客観的に振り返る。
抵抗もなく、しやすいように体勢を整え、受け入れの態度。これは、確かに、望んでいるように見えるかも、しれない。
「ぁ……ち、ちがっ!そういう意味ではない!!これは、その……」
羞恥が身を焼き言葉が纏まらない。今、自分の顔は火のように赤いことだろう。
己の行動を改めて認識し、インドラはたいへん困惑した。
本当にそんなつもりは無かったのだ。文句も言わず受け入れたのは、息子の心身を傷つけたくないからで、他意はない。
姿勢を正したのも、余裕と威厳を見せるためであったし、目を閉じたのは、現実を直視すると拒絶してしまいそうだったからだ。
(まさか、そのような意味で受け取られようとは)
登っていた血が今度は一気に引いていく。
見境のない淫乱だと軽蔑されてはいないだろうかと、怯えが心を侵食し、息子の顔を見れない。
赤くなったり青くなったり、インドラの顔色はたいへん愉快なことになっていた。今の彼を見れば、宿敵の邪竜は腹を抱えて笑うことだろう。
アルジュナオルタは表情を変えない。だが、彼の背では尾がピコピコと小刻みに揺れている。それにもインドラは煽られ恥辱が深まっていく。
「…………」
「♪」
勿論、アルジュナオルタには挑発のつもりはまったくない。本当に喜びからの発言であったし、気分の高揚から勝手に尾は動くのだ。
(待ってくださる父様があまりにも愛らしく、つい親愛の口づけをしてしまいました。が、どうやらご不満のようですね)
インドラが俯いたのは、唇にされなくて拗ねたからだ。
そう受け取ったアルジュナオルタは、謝罪の気持ちと共に、ほんの少しの悦を覚える。自分の行動一つで表情をコロコロ変える父は、見ていて飽きない。
(お詫びも兼ねて、今日は長めにしよう)
そして、自身の認識がズレていると知らぬまま、彼はインドラの肩と腰を固定し、再び顔を近づけた。気の高ぶりから、腕に尾まで絡めてしまっているが、許容して貰えるだろう。
「ま、待て……んっ!」
「……ん」
最早軽くパニックを起こしているインドラが暴れそうになるのを、上から伸し掛かって制する。いつものように父の口内へと押し入れば、甘い魔力が舌を迎える。
(ああ、美味しい)
あまりの甘美さに、逃げる舌を追いかけていつも好き勝手に暴いてしまう。それに申し訳なさを感じていた。
(ですが、この方も欲してくださっているのならば)
今まで無意識に我慢していたことも許されるだろう。アルジュナオルタはするりとインドラの喉を手で撫で、同時に中からも舌を限界まで伸ばして喉を侵す。
「んん!?ん”っ~~!!!」
インドラの身体が強張り、腕で押し退けようとしてくる。胸まで叩いて実に元気の良いことだ。
しっかり筋肉のついた膝へ完全に乗り上げ、体重をかけ動きを封じる。異物を追い出そうと忙しなく動く喉の感触が、掌越しにも伝わって楽しい。
「ん”っ、ぐ……」
「……ちゅ……」
落ち着けるよう指先で喉仏を擽れば、ピクリと震えて一瞬抵抗が止む。褒美に柔く舌を噛めばまたも跳ねる身体が面白い。
「っ……ん……」
じっくり時間をかけて、魔力とインドラの反応を堪能した。疲れたのか完全に動きがなくなったのを見計らい、アルジュナオルタは口を離す。
「ふ……」
「っは、……はァ……っ」
「おっと、大丈夫ですか?」
くったりと力の抜けた身体が、椅子からズレ落ちそうなのを受け止める。
顔を覗き込めば絶景が見えた。髪が乱れて露になった額。紅潮した頬。濡れた唇。潤んでぐずぐずの瞳。どれもこれも、涎が口の中に溢れてくるほど極上の仕上がりだ。
『ゴクンッ』
大きな音を立て口内のものを飲み下す。
アルジュナオルタは、未だ息を整えているインドラを椅子の背へと押し付ける。
「ぁ……」
目を見開き固まるインドラ。その瞳に宿る色は恐怖か、期待か。アルジュナオルタは判断の付かぬまま、腫れ始めた父の唇に舌を這わせた。