アセビお題 花言葉から「清純な心、犠牲、献身」
「っ……!(アルジュナ!)」
廊下でばったりとアルジュナ・オルタに出くわしたインドラは緊張と期待から息を詰める。もう一人のアルジュナと会話することには多少、ほんの少しは慣れたものの、こちらの息子とは挨拶くらいしかまだできていない。
特に今の彼は神に一番近い状態の再臨。口数が少なく、表情も乏しい。何を考えているのか判断する手立てがあまりにも少なく、子供との触れ合いに不慣れなインドラにはハードルがあまりにも高い相手だ。
(な、何を話せば良い。天気か?いや、今の地球でそれは無意味だ。では、近況を?)
チラリと視線を向けるだけで何も言わない息子に口腔内が乾いていく。早く何か言わなければまた一言も交わさないまま終わってしまうことだろう。それは嫌だ。
「……神へと至ったアルジュナ、か。…………息災か?」
「平常」
「そうか……(クソッ、考えていたことが全部吹っ飛んだ)」
勇気を持ってどうにか声をかけたものの二の句が続かない。端的な返事だけで去って行ってしまう息子に、引き止める言葉もみつけられなかった。後ろ姿を眺めるしかない己が歯がゆい。
(もう少し話をしたかったが、仕方ない。人に近い状態の時であればまだどうにかなったのだろうが、今のあれは神という名を与えられたほぼ機構。幾ら言葉を紡ごうとも響くことはあるまい)
このカルデアではマスターの趣味により再臨段階が自動で切り替わるようになっている。インドラなどは初めの頃、人に見せたくない姿へ急に変えられ憤ったものだ。
未だに慣れず内心怯えている所のあるインドラとは反対に、アルジュナたちは受け入れどのような姿であろうと変わらず過ごしている。
その姿を見れば父親であるインドラが狼狽えている姿を見せるわけにはいかず、現状を受け入れるしかなかった。
それは一旦置いておくとして、インドラには別にもっと気がかりなことがある。自己を蔑ろにしているように見えるアルジュナオルタのことだ。
神に近い再臨の時には特に、悪を裁くという点にしか反応をせず、生物らしさがあまりにも薄い。
そういうあり方であることは理解しているし、神へと至った息子の思いを否定したくはない。どれだけ辛く困難なことであっても、あの子が志を持って選んだ道を尊重してやりたい。清らかなあの心を、大切にしてやりたい。
自己犠牲も献身も、世間からは賛美される美点だ。しかし、あの子の親としては心配が第一に来てしまう。
尽くすばかりなあの子は、安らぎを得られているのだろうか。
「ふぅ」
ろくに話もできない現状ではどれだけ憂いたところで何もできはしないと思考を一時中断する。気分を切り替えるべく、酒の肴を求めて食堂へと足を向けた。
(まずは自然と話をできる関係にならなくてはな。そこから、もう少し深い話、先達として世界を預かる者としての心構え、気をつけなくてはいけないことを教えてやれれば良い)
真面目なあの子と、自由な気風の自分ではあり方が違い過ぎて受け入れられないかもしれないが。そんな小心が顔を覗かせるが、インドラは気づかないふりをした。