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    ジュナイン

    息子とサシ呑みで有頂天なンド様と下心のあるジュナの小話。

    アルケミラモリスお題 花言葉から「輝き、献身的な愛、初恋」


    自室へ用意した長椅子へ座り、晩酌をするインドラ。その傍らには愛する息子、アルジュナの姿があった。

    「どうぞ」
    「あ、あぁ……」

    息子が注いでくれた酒へ慎重に口をつける。逸る鼓動に手が震えそうになるのを必死に抑え込む。
    一緒に呑みたいと部屋を訪ねて来てくれたアルジュナに、インドラは極上の気分だった。
    そんな主人に気を利かせ、ヴァジュラたちは部屋の外で見張りをしている。つまり、息子と初めてのサシ呑みだ。
    邪魔する者も居ない空間に期待は高まる。

    (何を話せば良い?最近の調子か、それとも楽しかったできごとか?)

    話したいこと、聞きたいことは星の数ほどある。けれど、どうにも照れくさく、インドラはアルジュナへこちらからは声をかけられずにいた。顔を見ることさえ難しく、あらぬ方を向き、たまにチラリと横目で盗み見るのが精一杯だ。

    「…………」
    「……ふぅ、美味しい。インドラ神ももう一杯如何でしょうか?」
    「……うむ、貰おう」

    酒が入ったからかほんのり赤みを帯びた頬、柔らかな声、くるりと渦を巻く愛らしいつむじ。彼の輝きは、インドラの稲光にも匹敵するほど眩ゆく思える。

    (直視すれば目が潰れるのではあるまいか)

    そんな世迷い言が酔いの回った頭に浮かぶ。
    既にアルジュナは酔っているのか、今日は妙にスキンシップも多い気がする。それがインドラの戸惑いを加速させていた。
    酌を自らしてくれるだけではなく、ピッタリと隙間なく寄り添ってくるので、彼の体温と身体の感触を否が応でも意識してしまう。
    緊張を誤魔化すため、杯を空けるペースは普段の倍になっていた。
    せっかく息子がインドラのためにと、美味くてサーヴァントでも酔える酒を持参してくれたのに、気が張ってしまい味が殆ど感じられない。できることならゆっくり味わいたいのだがと、ままならなさに杯を持つ手へ力が籠もる。

    「父様」
    「っ!な、なんだ」

    突然普段と異なる呼びかたをされ、インドラは杯を落としそうになった。
    どれほど素晴らしい讃歌よりも、どれほど佳い女の嬌声よりも甘美な響きに、頭の奥がジンと痺れる。この子の朗らかな声で告げられる一言で胸が震え、落ち着かなくなる。このときめきは初恋に似ていた。
    腰を抱いてくる腕に力が込められたのを感じ、意識を息子へ向ける。

    「父様、こちらを向いては頂けませんか?せっかく二人きりなのに顔を見ることができず淋しいのですが」

    可愛い懇願に自然と頬が緩む。
    ああ、この子のためならばなんでもしてやりたい。この身に備わる全てを投げうってでも、願いを叶えてやりたい。
    アルジュナへの愛情が、インドラの身体を満たす。
    甘えるような声色に引き寄せられ、背けていた視線を戻せば大粒な宝石の如き瞳が見上げてくる。小首を傾げる仕草も可愛らしい。
    だが、そこに滲むのはギラギラとした雄の欲望。
    伸び上がり迫ってくるアルジュナに、インドラは反射で瞼を伏せ応じる。

    「んっ……」

    一瞬で離れていったが、愛し子との触れ合いは如何なる美酒よりもインドラを酔わせた。
    身体の感覚が遠く、頭もふわふわとして空へ浮かぶ雲のよう。心地よさのあまり、このまま眠りに落ちてしまいそうだ。
    熱く柔らかな感触を反芻し、舌で己の唇を辿る。

    「っ!」

    ゴクリと唾を飲む音が聞こえうっすら目を開ければ、獰猛さを露にした息子の姿があった。
    体重をかけてくるのに任せ、長椅子の座面へ自ら身を横たえてやる。覆いかぶさってきたアルジュナは一人前な男の顔をしていた。

    (あんなに小さく、大地を駆け回っていた子がこのような顔をするようになったか)

    子供の成長に愛しさは募るばかりだ。
    眦を下げたインドラが、受け止めてやろうと両腕を広げる。だが、何故か息子は盛大に顔を顰めてしまった。

    「失策だったか……」
    「……?」

    発言の意味が理解できず首を捻るインドラ。それへますます苛立ったのか、アルジュナは彼らしくない性急さで乱暴に父の唇を奪う。
    侵入してきた舌を迎えて絡め、こちらからもアルジュナの口へ舌を入れ返してじっくりと味わう。
    初めて触れた息子の口内は、極上な酒の味がした。
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