わちゃわちゃ囚人 <わあ、髭がないとなんだかすっごく若返ってみえるねえ>
かちかちという分針の刻む言葉に、ムルソーは目を閉じるのをやめて視線をバスの通路へと滑らせた。
メフィストフェレスの少し赤みがかかった四列固定シート席前方。運転席のほぼ真後ろ。
時計頭の管理人が、シートの背もたれに体を預けるようにして、後ろを振り返っていた。
行儀の悪い子供がプリントを後ろに配るように、身を乗り出して熱心に眺める先には茶髪の小柄な男……グレゴールが居心地悪そうに座っている。
今日に限って彼の一人席は随分賑やかな様子だった。
グレゴールの席を囲むようにホンルとロージャが立っており、騒ぎを聞きつけて好奇心を見せたのかドンキホーテやヒースクリフなども近寄ってきている。
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