ふたりとふたり ある魔術師は、人知れぬ果ての高山『沈黙の天文台』において、無為な召喚を繰り返すことが勤めだった。新月の夜に二騎を見送り、また新たな二騎を座から迎える。これを力尽きるまで繰り返す。
魔術師と親しくしていた者たちほど、彼に課されたこの処遇を嘆き憤っていたものだが、当の本人は叛骨に奮い立つほどの血気に満ちた年若ではなく、己の境遇に納得しており、新たな生活にさしたる不満も不便も感じていなかった。だから今夜も淡々と、陣を描いて詠唱する。
傷をつけた指先は黒いズボンに押しつけ、発光しているエーテルの中で構築されていく塊を見つめた。塊は上下に伸び、人の形になり、逞しく均整のとれた肉体が編まれていく。長身で、髪は肌の浅黒さに反して白い。端然とした顔面にある唇が皮肉げに吊り上がるよりも先に、魔術師は素早く立ち上がると、真正面の胸板に飛び込んだ。
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