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    matcha_753

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    師弟うちよそ小説 過去編
    カイゼル15歳、ユリシス38歳の時空
    師弟になるまでの話(捏造)

    師弟SSシーラフェイン伯爵家の依頼を受け、魔塔の治癒魔術師であるユリシスは大急ぎで屋敷に駆けつけた。
    まだ幼い息子が事故で大怪我を負ってしまった。助けてほしい、と。
    貴族らしい豪華な部屋のベッドに、包帯を巻かれた痛々しい姿の少年が横たわっていた。
    5歳くらいだろうか。名はカイゼル。由緒ある伯爵家の次男である。
    痛みのせいか苦しそうに呼吸をしている。

    「命に別状はないようだが、骨折が酷いな。放っておいたら歩けなくなる。伯爵様、魔力治療で後遺症が残らないよう治しますのでご安心を」

    診察を見守っていた伯爵と伯爵夫人は安堵したようだった。

    「ご子息はまだ幼く、魔力の受容器官が安定していません。一気に強力な治癒魔法をかけるより、数日に分けた方が安全かと」

    伯爵はユリシスの提案を快諾した。

    3日後には、痛みと発熱で朦朧としていたカイゼルの意識も元に戻り、ユリシスの施す治癒魔法を興味深々に観察していた。

    「魔法ってすごい。それ、ぼくも大人になったらできる?」
    「治癒魔法は希少なので、どうでしょうかね…。しかし令息からは、不思議な魔力を感じます。きっとすごい魔法が使えますよ」
    「そっか…。お医者さまの魔法は光みたいできれい。ぼくの魔法は何色なんだろう」

    幼いカイゼルを治療してから、10年の月日が経った。

    カイゼルは魔塔の魔術師になる事を志願した。
    家督は兄が継ぐため問題はないのだが、
    魔塔の魔術師といえば、危険を伴う魔獣の討伐や、利権争いの激しい魔道具開発のイメージが強く、やっていけるのかと家族から心配された。
    自分は医術と薬学に専念するのだと言えば、もう反対はされなかった。

    魔塔の入門試験をクリアし、カイゼルは一目散にある人の居室へと向かった。

    「ユリシスさん!」
    「うおっ!?」

    ノックもせず勢いよくドアを開け、驚いたユリシスは持っていた試薬を落としそうになり、慌てて体勢を立て直した。

    「だ、誰だ?」
    「カイゼル・シーラフェインです。昔あなたに治療して頂いた」
    「ああ、あの時の…。ここじゃ身分は関係ないから、もう敬語は使わんぞ。伯爵家のご令息だろうとな」
    「構いません。それより早速なのですが……私を、弟子にしてくれませんか?」
    「何だって?」

    魔塔の師弟制度は既に古いものとされており、師弟関係を結ぶ魔術師は現在ほとんどいない。
    魔塔の教育カリキュラムが作られて以降、新人は多くの魔術師から効率よく学び、早々に独立する。これがスタンダードな道である。
    師弟制度を選んだからとカリキュラムを受けられなくなるわけではないが、師弟制度の方に大したメリットがない。
    ユリシスはそう説明した。

    「師弟になれば、誓約の証を通じて一時的な魔力やスキルの貸し借りができたりはするが……ところでお前の適性は何だ?」
    「闇属性です」
    「相性最悪だな!」

    ユリシスは早々に却下したが、カイゼルは食い下がった。

    「治癒の道を志すべく、私なりに独学で知識を身につけてまいりました。家の図書室にあった医術、薬学、人体に関する本はすべて読みましたよ。きっとお役に立てるかと」
    「闇属性だって希少だぞ。極めれば高威力の戦闘魔法を習得できる。討伐隊でスターになりたくないのか?」
    「あまり興味ありません」
    「………」

    ユリシスは眉間の皺をつまんで思案した。

    「治療チームは人手不足だからな。俺は弟子をとる気はないが、治療チームに来るのは好きにしたらいい」
    「ありがとうございます、師匠」
    「話を聞け」
    「ところで誓約の証とは?」
    「師弟誓約の魔法陣が刻まれた装具だな。杖でもアクセサリーでも形態は自由だ。お互いの合意を持って誓約しないと魔法陣は発動しない。だから俺を師匠と呼んでも無駄だぞ」
    「……なるほど。では、合意を得るために頑張らないといけませんね……」

    その日のカイゼルは少し落胆して、ユリシスの居室を後にした。

    翌日から、カイゼルは気持ちを切り替えたように治療チームのサポートと実習に専念し始めた。

    ユリシスが休憩中のコーヒーと甘いお菓子を日課にしている事に気づき、カイゼルが甲斐甲斐しく用意すると、「執事かお前は」と一蹴された。カイゼルは気にせず、その後もお菓子選びを続けた。

    あまりにもカイゼルがユリシスを師匠と呼ぶので、ユリシスはカイゼルに詠唱封じの魔法(サイレス・スペル)をかけ、師匠と呼べなくした。ユリシスが認めるまで解けないという呪いのようなものだったが、師匠という単語限定のため生活に支障はなかった。

    治験に使う魔獣の幼体の世話といった、魔術師たちがやりたがらない仕事に限って「やってみるか?」とユリシスは意地悪く笑みを浮かべた。最初は不安があったカイゼルだが、闇魔法で幼体を従順にし、楽しそうに飼育し始めた。

    討伐より治療に興味があるというだけあり、カイゼルの闇魔法は特殊な発展を遂げていた…。植物の毒性を変化させる魔法だとか、魔獣限定の精神操作魔法だとか。これがどう治療に役立つのか未知数ではあるが、治験のサンプルとなる魔獣が管理しやすくなった事は、治療チームにとっては僥倖であった。

    ユリシスの予想に反し、カイゼルが治療チームでの地位を着実に固めていった頃。
    魔獣討伐隊の編成に治癒魔術師を入れるという知らせが届いた。大掛かりな討伐になるため同行が必要との事だった。
    ユリシスが選抜され、周囲の反対を制してカイゼルも名乗りを上げた。
    カリキュラムの受講を終えており、もう魔術師としては一人前だからと。
    ユリシスは出立の直前まで反対したが、カイゼルは聞かなかった。

    討伐遠征は順調に進んだと思われたが、ダークドラゴンの出現により、戦況は一気に悪化した。救護テントに運ばれる負傷者が後を絶たず、致命傷を負う騎士や魔術師も増えた。
    カイゼルが手当てしていた者が、先ほど息を引き取った。こんな形で生命と向き合う事も、無力感も、初めての事だった。

    「ここは、前線に出るよりキツいだろ」
    「はい……」
    「カイゼル、お前はよくやってる。あまり無理するなよ」

    ユリシスは交代だと言って、カイゼルに休息用のテントへ行くよう促した。
    ふと、極めれば威力の強い戦闘魔法が使えるのは光属性も同じではと、カイゼルは思った。そうしなかったのは、師匠なりの治療への信念があるからなんだろうか。いつかそういう話も聞けるかな。
    疲労の限界に達したカイゼルは、休憩を取っている間に寝入ってしまった。

    目が覚めて救護テントに戻ると、ユリシスの姿はなかった。前線の人員が足りなくなり、ダークドラゴンの弱点である光属性の魔法に賭けた作戦に協力しに行ったと聞いた。

    長い夜が明け、前線の生還者が全員帰ってきた。なんとか討伐は成功したようだ。
    ユリシスは他の騎士の肩を借りて歩いていたが、拠点に合流した途端に崩れ落ちた。

    「ユリシスさん!?」
    「カイゼルか……自力で傷は塞いだんだが、出血が酷くてな。そして魔力切れだ。魔塔に帰るまで持たないかもしれん……」
    「そ、そんな…!しっかりしてください!」
    「悪いな。いい治癒師になれよ……」

    ユリシスの意識はそこで途切れた。

    再び目を覚ますと、野営地ではなく王都へ向かう馬車の中だった。
    瀕死のはずだったのに、やけに目覚めが良い。

    「おはようございます。よく眠れましたか?」
    「なぜ俺は具合が良いんだ……」
    「輸血をしました」
    「なんだと?…言ってなかったが、俺の先祖はエルフだから血液型が複雑なんだよ。治癒魔法じゃないなら、一体どうやった」
    「有志で集めた血液を、私の魔法でユリシスさんの型に合うよう変換したのです…やってみたら出来ました」
    「………そんな芸当が」
    「事前に研究しておいて、よかったです」

    何の研究かは深く聞かない事にする。

    「王都で休息を取ったら魔塔に帰れるそうです。ところで、あの…私、結構頑張りましたよね?」
    「そうだな」
    「そろそろ弟子入りを真剣に考えてくれても…」
    「……王都でアクセサリーでも探していくか」
    「……!師匠……」
    「魔塔に戻ったら師弟誓約する」
    「はいっ!」
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