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    anstagannen

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    anstagannen

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    かきかけオメガバの冒頭──自分に運命が訪れるとは、夢にも思っていなかった。


    1.


     己は天才である。なんて大真面目に言ったら、大体の人間はフンと鼻で笑われるだろう。もしくは眉をひそめられるか。だが、おれは違う。おれは天才だ。もっと的確に言えば、作曲の天才だ。
     小さい頃から音楽が好きだった。歌って踊ると妹が喜んでくれるからというのもあるけれど、自分の身の内にメロディが溢れて止まらない感覚。ピアノなどですぐに演奏するか、紙に書いて発散しないと己を焼き滅ぼしてしまいそうなほど熱い迸りが常に脳みその中にあって、おれはひたすらに曲を生み出していった。おれの中に眠っているメロディの種は刺激を受けることで芽を出し、急速に成長する。きちんとひとつの作品として完成させることは何事にも代えがたい快感で、だからおれは日々インスピレーションを求めて行動していた。親和性の高いダンスなんかは作曲の次に得意になったし、電子で演奏できるような類もすぐに習得した。
     そんなおれは端からみると「α」に見えるらしい。αというのは第二性のピラミッドの頂点に君臨する分類だ。世の中には男と女という性差の他にα、β、Ωという種別があり、一般的にαは天才が多いとか言われている。社会的にもαというだけで優遇される風潮が確立されていて、大企業の社長だとか、トップアスリートだとか、世界に名を馳せる芸術家だとか? そんな類は大体αなんだそうだ。なるほどその理論でいけば、おれは間違いなくαだろう。だが残念なことに、おれの受ける第二性検査の結果は、一度だっておれを「α」だと診断しなかった。「β」とも。つまりおれは、世の中の才能ヒエラルキー的に最下層とされている「Ω」らしい。こんなに天才なのに? あほらしい。

     と、いうことで、おれはこの年になるまで全く自分をΩだと認識せずに生きてきた。Ωが必ず発症する「ヒート」だって早ければ15歳をすぎれば起こるというのに予兆すら一度も感じなかったし(だから薬だってたまにしか飲んでないくらいだ。かかりつけ医ですら「月永くんは本当にΩなのかなぁ」と首を傾げてくるのだから仕方ない)、フェロモンとやらも多分出ていない。作曲の天才ゆえにαが蠢く芸能界にだってある程度顔を出したりするけれど、どんな大物と顔を合わせてもおれのなかに眠るΩの本能とやらはぴくりとだって揺り動かされなかった。
     だから多分、油断していた。世の中がこんなにオメガバース性を教育するのだから、本来もっと気をつけなくちゃいけないことだったのだと思う。本能というものはもっと無情で、冷酷で、そして圧倒的なものなんだと。ただの理性では抗えないのだから、受け入れる心の準備をしておかなきゃいけなかった。怠ったから、多分おれはこんなに苦しんでしまっているんだ。


    ◇◇◇


    「瀬名泉です。よろしくおねがいします」
     ──運命のα、だ。
     ひと目見た瞬間にわかった。玄関を満たすような爽やかな香りに血液が沸騰して、スカイブルーの瞳に脳が痺れて、声を聞いて心臓が止まりそうになったから。

     セナは8歳の時にお隣に引っ越してきた、キッズモデルとバレエをしている、まだ小さいのに背筋の伸びた、綺麗な男の子。
     確か昼時だった。お母さんに呼ばれて、隣に引っ越してきた方がご挨拶に来たんだと説明されて、ちょうど妄想の切れ目だったから足を向けたんだっけ。その日もメロディは目の前をふよふよとご機嫌そうに漂っていて、おれが五線譜の中に収めてあげると嬉しそうにフレーズへと変化していった。今日もおれは天才だな……♪ そんな風に思っていたけれど、その子供の顔を見た瞬間に音符たちがいっせいに宇宙の彼方へと飛んでいってしまった。
    「あら~、しっかりしてるのね。泉くん? よろしくね。ほら、レオもご挨拶して」
    「あ、……えっと、」
    「れお……くん?」
    「そうよ~。作曲ばっかりしてる変なお兄さんだけど、仲良くしてあげてね。ほら、レオも……。黙りこくって、どうしたの?」
    「あっ! うん、ごめん……。セナ、イズミくん? よろしくね」
    「よろしくおねがいします」
     ぺこ。実に礼儀正しくその子は頭を下げた。くるくると天使みたいなゆるい銀糸のウェーブに埋もれたつむじが可愛い。そして美しかった。
     その後はお母さん同士での雑談が始まり、セナはちょっとだけおれの家にあがっていくことになった。オレンジジュースを出そうと思ったら、モデルをしているから、と断られたのには面を食らったけど、コクコクと水を飲む姿もまるで妖精かなにかのように煌めいていて、それでいておれの中のΩを刺激した。赤ん坊のように滑らかな肌、ぷっくりとふくらみピンクに色づいた頬、くるりとまつげの上がった大きな瞳。ぷるぷるの唇も、なにもかも全てがおれの嗜好を読んで作られた神からの贈り物のように精巧だった。奇跡が人間の姿になったらこんな感じだろうとハッキリ思ったのを覚えている。あぁ、この子の全部が知りたい。もっと色んな表情が見たいし、声も聞きたい。何に興味があって、どんな性格をしていて、どんな発想をしているんだ。この子の8年間を全部知りたい。そんな衝動に駆られた。
     同時に本当に血の通った人間なのかひどく不安になった。こんなに綺麗で、美しい生き物が、おれや周りと同じ人間には到底思えない。いっそ絵画とか彫刻みたいな芸術品のひとつだと言われたほうが納得できる。そう思って母親の雑談を待つ間、おれとリビングのソファに並んで座り、ぼんやりと子供向け番組を見ているセナの手をツンと突いては離していると不審そうに目を細められた。
    「なぁにい? なんか気になるのぉ」
    「あ、いや、なんか……セナって天使みたいに綺麗だなって思って」
    「はぁ~? 当然でしょ。俺はモデルなんだから」
    「うん。でもなんていうか、現実離れしてるっていうか……指先まで綺麗」
    「ふふ。ママがいつもケアしてくれてるからねぇ。……でも、れおくんも結構かわいい顔してると思うよぉ? 17歳のお兄さんなのに」
    「なにっ、それは悪口だぞっ! おれはどっちかと言えばカッコイイだろ!?」
    「えぇ~? でもさっき思ったの、玄関ではじめてれおくんを見たとき。かわいいな~って……なんか、守ってあげたくなる感じ。なんでだろうねぇ?」
     ふわりと微笑みながらセナがそう言って、撫でるつもりかおれの頭に手を伸ばしてくる。だがまだ小さな体ではおれの頭まで腕が伸びず、仕方なくむぎゅ、と猫みたいにおれの頬に手を着地させた。そうしてべこ、と凹んだおれの顔を見てまた笑みを深めた表情を見て、頭から背筋にかけて電撃が走る。
     あぁ、好きだ。この子が好き。この子が欲しい。
     それは本能的なもので、根拠なんてない。ただの一目惚れだし、Ω性のまやかしかもしれない。でもおれは確かにこの子に会ってから体がおかしい。血が沸騰するように熱くてドクドクと脈打っているし、脳が痺れて目の奥がチカチカ点滅してる。今すぐこの子に抱きつきたいような欲望を押さえるのに必死だ。こんなのおかしい、ありえない。でも確かにこんな小さな子に体を委ねたくて、触りたくて、触ってほしくて。
    「……わはっ、ごめんセナ。おれちょっとやることあるから、いったんここでバイバイするな?」
     危機感を感じたおれはそう言うと、セナの手から体をそらして逃げた。
    「えぇ~? ママたちまだお話してるよ。れおくん、もうちょっと俺と暇つぶししてよ」
    「ん~っ、ごめん! お兄ちゃん作曲しなくちゃいけなくてさ~? 出来たらお前にやるからっ! だから今日はここまでにさせてっ! ごめん!」
    「作曲……? れおくん、曲が作れるの?」
    「そう! おれは天才だからなっ! あぁ、湧いてきた湧いてきたインスピレーションが……! セナの美しい顔を見てたら天使が奏でるセレナーデが浮かんできたぞ! 出来たらお前にあげるからっ! だからいったんおれを開放してっ」
    「ちょっとレオ~? まったく、ごめんなさいね。うちの子ちょっと変わってて」
    「良いんですよ。素敵な特技じゃないですか」
    「わはは! じゃあおれは部屋に戻るっ! またなセナ! アスタ・ラ・ビスタ・ベイビー……☆」
     不満げにおれを見つめるセナと呆れたような母親の声を受けながらも、能天気なフリをしてすっくとソファから立ち上がる。これ以上この子といたら本当におかしくなりそうだ。
     この17年、こんな変な気持ちになったことはなかった。おれには音楽さえあればいいと思ってたし、それは今でも変わらない。もちろん犬や猫みたいな動物や、人間のことも大好きだけど! 人は誰だって人生と言う名のテーマで本が書ける。一冊だって同じものはないし、そこにインスピレーションの種は埋まってて、おれに未知のメロディを与えてくれるのだ。だから人類皆、だーいすき! おれに刺激をちょうだい! 美しい旋律に変えてプレゼントするからっ! 喜ばす自信があるからっ! 
     だけど瀬名泉、この子はダメだ。そんなつまみ食いが出来ない。全部欲しい。そして全部あげたい。こんな短時間なのに、見てるだけじゃもう足りない。この小綺麗な服の下はどんな形をしているのか、どんな温度なのか。そのもっと奥の心は、どんな時に悲しんで、どんな時に喜んで、何が好きで嫌いなのか。全部全部知りたくて、まるで餓鬼にでもなってしまったようだ。
     でもそんなこと言ってられない。8歳も離れた子供に欲を押し付けるなんて絶対に出来ない。普通に犯罪だし、おれのプライドも許さない。だからおれはこの出会いをなかったことにしようとした。お隣さんとはいえ、会わないように気をつければ会わないでいられるだろう。
     そう思って振り切るように自室へ向かおうとした足が、セナに服の裾をきゅ、と握られたことで止まる。ひゅ、と喉が鳴りそうになったのを寸でで堪えた。そして笑顔まで作る。ポーカーフェイスの天才でもあったのか、おれは。
    「れおくん」
    「ん~? なんだっ?」
    「これからお隣なんだし……。いっぱい遊んでくれる?」
     追い打ち、トドメ、チェックメイト。どれだろう。
     セナは大きな瞳をうるうると艶めかせてそう言うと、たっぷりと期待を込めた視線をおれに向けてそうお願いしてきた。これっきりで二度と顔を合わせないほうがいいのに。そうわかってはいるけれど、こんな可愛い顔でお願いされて、どうやったら断れるんだ。おれは心の中でがっくりと首を折りながら、それでも顔は笑顔のまま、小さな少年に頷いてみせる。
    「うん……もちろん」
    「ふふ、よかったぁ。じゃあまたね? れおくん」
     こうしておれは神の悪戯か偶然か。天使のような顔をした運命のαと、己がΩだとバレないように気をつけながら、隣の家という物理的に近い距離で過ごすことになるのである。


     そして現在。
    「あ、れおくん。おかえりぃ」
     18になったおれが出席日数の若干ヤバイ高校から帰ると、我がもの顔でセナが部屋に居座るようになっていた。
     出会って一年が経ったが、セナの美しさはより磨きがかかっている。まだ第二性の診断はしていないみたいだけど、正直誰が見てもαであることは明らかだった。こんなに優れた容姿、きっと地球上に並び立つものはいない。おれは日に日に強くなっていくセナの匂いに耐え難い気持ちになりながらも理性で踏ん張っていて、それなのにこうして頻繁に部屋に訪れて匂いを残されるものだから最近、こっそりフェロモン消臭剤を購入した。
     そんなことを梅雨ほども知らないセナは、ぺらりとおれの部屋に持ち込んだのだろう雑誌をめくりながら、ベッドの上から手を振ってくる。
    「あのさ~……。お前ずっとおれの部屋にいるのやめてくれない?」
    「別にいいでしょ。小学校は高校より早く学校も終わるし、仕事も今日はなかったから。っていうか、今日はおばさんもルカちゃんもいないから、れおくんの面倒見てほしいってお願いされたの。小学生に面倒見てってお願いされるなんてさぁ~? どうせまたごはん抜きまくってるんでしょ」
    「はぁ……」
    「ちょっとぉ、ため息ついた? 俺が部屋にいてため息なんて信じらんないんだけどぉ!?」
     セナが高い声でキャンキャンとお小言を述べる。あぁいつの間にこんなに口うるさくなっちゃったんだ。

     おれの目論見は完全に外れ、出会って以降親同士が意気投合したことにより、こうしてお互いの家を行き来することは完全に習慣となってしまった。セナのご両親は共働きなので小学校が終わってから21時くらいまでおれの家で預かったり、逆におれやルカが夕飯のご相伴に預かるなんてことも多い。本当はセナと距離を取りたいおれとしてはなんとかこの状況から逃れられないかと野宿したり、安いホテルに泊まったりと作曲を言い訳にして放蕩したりもしてみたんだけれど。一週間くらい家を開けた結果、セナがおれを探しに夜中家を出たと連絡を受けて仰天してしまい、慌てて街中を探し回ることになってしまった。結果セナはおれとたまに遊びにいく公園のベンチにぽつんと座っていたんだけれど、見つけた瞬間こんな綺麗な子供が夜中家を出たらどうなるか少しは妄想しろ馬鹿! と柄にもなく怒ってしまった。するとセナはおれにぎゅうと抱きついて、「だって、れおくんに会いたかったから」と言ってぽろぽろと泣くから、おれはそれ以降二度と修学旅行などの行事以外で家をあけないと誓ってしまった。とにかくおれはセナに弱かった。
     そうしてこんな、家族みたいな、兄弟みたいな距離感で日々を過ごす羽目になってしまっている。
     相手は運命のαだぞ、たぶん、おそらく。しかも年の離れた。本当にこのままじゃいけない。こうなったらセナのα性が目覚める前に大学なりなんなり理由を付けて円満に家を出るしか無い。
     最近ではもっぱらそんなことを考えて、こっそり学費全免除だと言ってくれてる音大や芸大、いっそ仕事をはじめてもいいかとプロダクションなどに顔を出したりもしている。愛する妹と離れるのは辛く悲しいが、おれのせいでセナを人生に巻き込む方がもっと嫌だった。セナは一年前と同じくキッズモデルとして頑張っている。きっと将来はもっと偉大なモデルだったり、世間に求められるような人物へと育つだろう。これはおれの勝手な想像だけれど。そんな子の未来を例えばおれに縛りつけてしまうなんて、絶対いやだった。もっと広い世界をみて、セナが良いなと思う人と番なのか結婚なのか、つまり恋愛をしてほしい。Ωに惑わされて道を踏み外すなんて、してほしくなかった。
     それが正しいと心も頭も思うのに、このことを考えるとどうしてもおれの中のΩが血を流した。ぎゅっと胸が傷んで思わず手で押さえる。
    「? どうしたのれおくん」
    「ん? あ、いや、なんでもないから……」
    「疲れたの? いっしょにお昼寝するぅ?」
    「ん……」
     おれが入り口から動かないのを心配したのか、セナがぎしりとスプリングを軋ませてベッドから降りてくる。そうしてきゅっとおれの手を握ると、心配そうな顔でくいと引っ張ってきた。
     ──あぁ、可愛い。綺麗だ。おれのにしたい。
     自分の背丈の半分くらいしかないような子供なのに。こんなことを思うなんて最低だ。そう自分の心をすぐに否定すると、また胸が痛くなる。ギシギシ、今日は物理的に痛い。苦しくて、思わず腰が曲がってしまうと、焦ったようにセナがさらに顔を近づけてきた。
    「れ、れおくん? ほんとに大丈夫?」
    「っん、セナ、ごめん、ほんと大丈夫だから……」
    「でも、顔あかいよ。熱ある?」
     小さな手が額に伸ばされる。ぺた。子供体温の温かい手が額に乗って、セナの体温が伝わった瞬間に、おれの視界がざぁっと熱で歪んだ。
     ヤバい。本能でわかった。もしかしたらこれ、ヒートってやつかもしんない。
     手が震えて、脳が痺れて、呼吸が乱れて、腰が役に立たない。成すすべなくおれは膝を折って座り込むと、ぎゅうと体に腕を巻きつけてせめて少しでもフェロモンが出ないように願った。
    「れおくん!」
    「……セナ、悪いけど、帰ってくれる?」
    「はぁっ!? 何言って……! こんなれおくん置いていけるわけないじゃない! れおくんママに電話する!」
    「いいから!! 帰れってば!!」
     慌ててスマホを取り出すセナを怒鳴りつける。もう精一杯だった。体の芯が熱くなって、お尻の、ありえない部分がぐちゅりと湿ったのがわかった。目の前のαを受け入れるために体が開いていっている。今はまだ理性でなんとか耐えられているけど、Ωがαを襲うケースだってあると習った。もしそんなことをしてしまったらおれは。
    「れおく……」
    「出てけ! じゃないと無理やりにでも追い出すぞ!」
     うそだ。もうそんな力ない。
     自分の腕の中に顔をうずめて、必死にせり上がってくる欲望に耐える。あとどれだけ持つだろう。おれは、そしてセナは。おれの、Ωのフェロモンになんて絶対当てられないで。そう願うけど、もう顔も見れない。セナのあの、綺麗な顔を今みたら、どうなってしまうかわからなかった。
    それなのに。
    「……出てかない」
    「……は」
    「こんな状態のれおくんを置いて出ていけるわけないでしょ! 出てかない!」
    「──っばか、セナはなんもわかってない! 出てけってば! 一人にしてっ! いい子だから、お願いだからっ……!」
    「やだ! 辛い時に一緒にいさせてよぉ……れおくん」
     セナはそう懇願するような声音で言うと、しゃがみ込むおれを抱きかかえるように腕を回してきた。小さな体、細い腕、か弱い力。匂いがより一層強くなって、ぐらりと目眩がする。
     突き飛ばすか。そして無理矢理にでも部屋から追い出して、鍵を閉めて籠城するか。そのあとお母さんかかかりつけ医に連絡すれば、多分なんとかしてくれるだろう。
     そう脳内で何度もシュミレートするけれど、この愛しい温度を突っぱねられるほど、おれは強くなかった。
    「セナ……」
    「大好きなの、れおくん。俺に守らせて……」
     ぎゅう。さらに力が込められる。
     ──あぁ、もうこれは仕方ない。どうしようもない。愛しい。神様、ごめんなさい。
     心で呟いて、おれはセナを追い出すことを諦めた。そして欲望や本能といった自分と戦うことを選択する。バクバクうるさい心臓と、目の前のαを食べろとうるさい脳みそを制して、勝手に解ける体を叱咤した。……うん、よし。大丈夫。おれは理性を保てる。
     本当は、ヒート中のΩがそばにいるなんて、絶対ダメなのに。わかっていたのにおれは禁忌を犯した。だって仕方なかったんだ。
     セナに抱きしめられたのも、好きだと言われたのも初めてだったから。ヒートの辛さより、嬉しさの方が上回ってしまったんだ。
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