宝玉風の強い日だった。
リンクは日中ずっと体調がすぐれず、激しい気分の落ち込みで布団から起き上がれずにその日を過ごしていた。
今、夜になりおれが風呂から上がってきても、リンクはつらそうにベッドの上で布団を被り横になっていた。辛うじて風呂には入れたものの、それ以外の時間はこうして横になっている。
「リンク」
ベッドの、リンクの隣の空いたスペースに座りながら呼びかける。窓の外では風が鳴り、窓ガラスをカタカタと鳴らしている。
リンクはおれの呼びかけに反応して、眉間に皺を寄せ枕に頭を押し付けたまま目を動かした。
「吐き気はある?」
質問すると、リンクは黙って小さく首を横に振った。ふうと息を吐いて余計に枕に頭を押し付けている。
おれはリンクの柔い鈍い金色の髪を優しく梳いた。
「よしよし。おれの大事な大事なリンク。愛してるよ。こっち見て」
愛を囁きリンクの沈んだ心に働きかける。彼は視線を上げおれを見た。瞳が揺れて心許ない眼差しを向けてくる。
「ん、かわいい」
顔を寄せ、額にキスをする。リンクが少し安堵したのかほうっと息を吐き出した。
おれは唇を離してもう一度彼の髪を優しく梳いてあげた。リンクが瞬いている。
「つらいよね。眠れないんだったらおれが話し相手になるから。気を紛らわすのになにか飲む?ホットミルク入れてこようか」
おれの言葉に、リンクは横に向けた自身の顔の前に置いた手をぎゅっと握りつらそうにまた何度か瞬いた。それから少しの間彼は考え、ようやくこくりと控えめに頷いた。
「待ってて」
離れ際にもう一度リンクの額にキスをし、おれは階下におりていって台所に向かう。
ホットミルクを二人分マグカップに用意して二階のベッドへ戻る。リンクに持ってきたよ、と伝えてサイドテーブルにそれらを置き再びベッドに座ると、横を向いていたリンクは天井を仰ぎまたふうと息を吐いた。
ぐっと目を閉じ眉根を寄せてそれから息を詰める。その彼の様子をおれは見つめる。
「起き上がれない…?」
問うとリンクは黙って頷く。彼は先程頓服は服用したのだが、やはりまだなかなかつらいままのようだ。
手を伸ばしてリンクの頰に手の甲を当てた。低体温の彼の頰が優しくあたたかい。
「ゆっくりでいいから。待ってる」
すると閉ざされていた口を開いてリンクが言った。
「…ありがとう」
彼の言葉が真水のように澄んでおれの心に浸透して、思わずふっと微笑みを向けた。
リンクは体調が悪い時うんと口数が減る。だからそうした時に時折紡がれる短い言葉が、聞いているおれの胸をとびきりあたためるのだ。
最近感じる。
こうして体調が悪いリンクに寄り添う時間が、愛おしい。
どんなリンクのことも寄り添うと心地良くて、もっと彼と同じ時を重ねたいと思える。
大切な大切な、おれと彼の宝のような時間だ。