酔っぱらいと朧月「気を遣るなんてのは二流のすることだ」
霞んだ月を眺めては赤らんだ顔で徳利を寄越す。春の宵はほんのりと湿気を帯びて、忍者馬鹿の口を軽くさせていた。
ニヤリと口のはしを上げたその顔がちらりと見えて、癪に触るったらない。
「ばあか」
文次郎の手から中身が半分ほどになってしまった徳利をひったくる。
「オレの差し入れた酒だってのに、あーあ、こんなにしやがって」
東国のとある城の城主の話を先生方がひっそりとしていたのを、小平太が立ち聞きしたことがきっかけだった。その主にはたちの悪い癖があるらしく、目をつけた者は部下も下働きの女もかまわず「お手付け」にするという、奇っ怪極まるものだった。
「潜入した敵方の忍びもあやうく、って話じゃねえか」
1268