【探墓】service ノートンが部室に誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰っていることを僕は知っていた。
『行かないで』
今日も真っ白なトルソー相手に手を替え品を替え口説き、練習をしている。
『少し時間をくれないか……違うな』
夜目がきくからと押し付けられた戸締りをほとんど完遂し、それからなんとなく彼の練習が終わるのを待ってから部室を施錠する。交わす言葉は遂になかった。
「どうか、ありきたりな言葉だが聞き届けて」
スポットライトを支えている手が微かに震えてしまう。ノートンが浴びている光の一つを、今こうして僕が浴びせているわけだが、
「たとえ君が、僕のことを愛していなかったとしても」
足元の観客の反応は様々だ。息を飲む子もいれば、小さく悲鳴さえあげた子もいた。
「僕はね、」
彼が息を大きく吸うと同時に、つい僕も、舞台に意識を持って行かれる。
「君を愛している」
このセリフを、僕は何度聞き届けただろう。今日は千秋楽で、僕は照明係。スイッチを落とし、彼を暗闇に突き落とす。すると拍手の音で会場の空気が揺れた。
ノートンが殺し文句を客席に言い放った時、その先に僕が居たのはきっと偶然だ。