忘れるほど遠くへ「ねえ、遠くまで行こうよ」
そう言ってきたのは俺の伴侶であり、吸血鬼としては親となる男だった。
「どうしたよ、いきなり」
「前から考えていたんだよねー、ロナルドくん結局生涯ワカホリ男だったじゃん。旅行なんてお祖父様の発明使っての空想以外なんかあったっけ?」
キッチンからソファに持ってきたマグカップには温められた牛乳が入っていた。なんか他の味もするので色々入れられているのだろう。俺にはうまいということしかわからないが、ジョンに聞けば事細かに感想と解説を聞けたのに。
「ないがなんか悪いか」
「その無駄に素早い拳は悪いかな」
「おっけ、じゃあ足な」
仕事に生きた人生でなにが悪いか、確かに国内でも行った観光地はロクにはないがだからといってそれが不幸だとも、だから刺激がない人生だったということもない。トラブルとお祭り騒ぎがデフォルトなこの町では常に全力疾走を求められていたのだから。
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