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    kameyamakameta

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    kameyamakameta

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    ごすのちゃん基地の白鱗隊長とウテンくゅの幻覚のメモ

    白に暗む「白い」ということは、「良い」ということだ。

    白く磨かれた砂糖は上等な菓子には不可欠だし、柔らかな麺麭には白い小麦がいる。
    大事な書類は真白に整えられて重要な判が付くと決まっているし、真っ白な布は高級品だ。
    こういったものの欠点を挙げるなら、「負担が大きい」ということだろう。
    食べ物なら白いものは体への負荷が大きいからあまり食べすぎるなと教わるし、重要な書類は取り扱いに心労が嵩むし、高級な布地を手に入れようとするなら対価はいかほどかも分からない。

    「白」とはそういう色だ。
    美しく、重責を強いる色。

    でも重責を呑むのなら、間近で見ることも赦されるのだ。あの鈍く灯りを返す、「白い」背を。

    「隊長、ウテンです。」
    コツコツと執務室の分厚い扉を強めに敲くと「ああ、入ってくれ」と招かれる。

    今日は訓練も演習もなかったので自室で傘の手入れをしたりして暇を潰しながら休んでいたのだけれど、夜明け前になって急にウチの隊で副官として研修を受けているシャケが「隊長がお呼びです!」と訪ねてきたのだ。
    もちろん隊長の言うことにただの隊員である自分が厭なを言う資格はないし、実際自分は何も嫌ではない。むしろ休日であってもあの方の為に動けるなら嬉しいと思う。
    でも、同時にどうしたのだろうとも思う。
    ウチの隊長は、作戦のオーダーこそ厳しいものの、隊員に無理をさせない事は有名で。だから副官なりたてのシャケの研修を任されたりするくらいなのに。
    こんな休日の、しかも日が昇ろうかと言う時間の急な呼び出しなんて、隊長らしくない。
    それだけ火急の用事、もしかしたら暗い匂いのする仕事かもしれないと、あまり目につかない通路を通っては来たけれど。

    「はい、失礼しま…ぇ…」
    招かれるまま扉を開けて、固まる。
    そうすると重い扉に外に追い出されそうになって、慌てて体を部屋に滑り込ませた。
    「すまないな、急に呼び出して。…ん?どうした?そんな驚いた顔をして。」
    隊長が窓から差し込む朝焼けの光の中で穏やかに目を瞬かせてこっちを不思議そうに見るけれど、こっちとしては何にも穏やかじゃない。
    この執務室には、何度か来たことがあるし、こうして隊長と何度も話したことがあるけれど。
    こんな格好の隊長は、知らない。
    バクダンとしての装備を外して、身につけているのはベルトとズボン。コレはいい。業務が無いならバクダンはこの服装になる。
    異質なのはその上にばさりと羽織った、大きな布地だ。ただの布地ではなく、分厚くて端に房飾りがあしらわれた、おそらく防寒具の1種で。
    淡く色味がついているのを見るに糸から染めたのだろう。
    俺でもわかる、とんでもない高級品だ。
    …えっちだ…。
    これは、俺が隊長に褒められたことをオカズにしてるからとかそういうことじゃなくて、誰が見ても全員そう答えると思う。
    だって、布地の多い服装なんて、作戦に必要で無ければ、多くは番相手に見せるようなものしかないのだ。
    隊長にそんな気はないとはわかっているけれど、こっちは貴方をオカズにしている身なんですよ、わかって下さい、嘘です分かられたらたまったもんじゃない。
    そんな言葉が頭の中を濁流のように過ぎ去って、なんとか絞り出した
    「あの、隊長、装備は…?」
    という言葉に隊長は、そうか、お前には見せたことがなかったな、と微笑んで、
    「仕事が無い日は装備を着けんだろう?体が軽くて良いんだが、長くバクダンとして生きすぎたせいかどうにも背が落ち着かなくてな。作ってもらったんだ。」
    ふふ、長生きすると布地の無駄遣いも許されるんだぞ?と余り布をヒラと振って見せるのはやめて下さいほんとうにえっちが過ぎるので勘弁してください…。
    その場に崩れ落ちて懇願したいのを耐えて「そうでしたか。ということは、隊長ご自身のご用をお任せ頂けるということなのでしょうか?」と尋ねた俺はとても偉いと思う。
    そう聞くと隊長が一瞬しまったと顔を顰めたのでなんだろうと思うとバツが悪そうに顔を掻いて
    「そうか、執務室に呼んでしまったから、業務の話だと思ってしまったか…。すまないな、場所が分かりやすいと思ってここを選んだだけで、私用、というか私用と業務が半々くらいの用向きなんだ。そんな堅苦しい話ではない。話を聞いた後で断ってくれても構わないから楽に聞いて欲しい。」
    「は、はい…」
    私用と業務が半々の用事ってなんだろうか?
    もちろん隊長が任せてくれるなら私用でもお役に立ちたいから断る理由などない。
    しっかりと話を聞こうと姿勢を正すと「本当にそんな堅い話じゃないんだ」苦笑しながら、執務用の机の向こうにある椅子に置いていたらしい「何か」をひょいと持ちあげて「これの扱いに困っている」と言って、見せられたのは。
    「…ぬいぐるみ、ですか?」
    ぬいぐるみといってもただ布に綿を詰めたものではなく、なんと、隊長と同じバクダンの形をした、恐ろしく出来のいいぬいぐるみだった。
    「これは、すごい、ですね…。工芸部の作品ですか…?」
    「ああ。俺を模して作ったから、試作を一つ贈ってくれたんだが、特に使い道がなくてな。」
    貰ったものを無下に捨てるのも忍びなくてと控えめにため息を吐く隊長に確かに捨てるには勿体ない出来ですしねと言うと「…そう思ってくれるか?」と念を押すように聞かれて、良く分からないけれど頷く。
    捨てられるなら、俺が欲しいくらいだ。
    「じゃあ、貰ってくれるか?そうしてもらえるととても助かるんだが。」
    「え、ええ?!」
    ずい、と差し出されるぬいぐるみにどうして良いか分からずあたふたと鰭を上に上げて不用意に触らないようにする。
    欲しいとは思った!思ったけど!
    隊長から物を賜るとなると話が変わってくる!
    「いや、あ、あの!」
    「頼まれてくれないか?わざわざ呼び出しての頼み事がコレで悪いが…。」
    ずずい、と更にぬいぐるみを差し出されて、わ、ちゃんと背中の鱗が白く刺繍してあって隊長にそっくり…違う違う!そうじゃなくて!
    「あ、あの!」
    「うん?」
    大事なことを、確認しないといけない。
    「こ、これは、褒賞とかでは、ないんです、よね…?」
    「……。」
    「隊長?」
    ぬいぐるみがすい、と退かされて。
    隊長がそれを抱えるようにしながら。
    「…これもダメだったか。」
    と困ったように笑って言う。
    ああ、やっぱりそのつもりだったんだ。
    「…わざわざ、用意をさせたんですか?そのぬいぐるみ…」
    「いや、コレの経緯はさっき言った通りだ。普段褒美として用意するようなものとは毛色が違うから、これならどうかと思ってな。」
    「俺は、…いつも言ってますけど、隊長の下で仕事が出来れば十分なんです。当たり前のことが、当たり前に出来れば、それで。」
    「そうだな、お前はいつでもそう言ってくれるな。」
    そう言って隊長は目を瞑って、言葉を噛み締めるように何度か頷いていて。
    それはどこか寂しそうで。
    「隊長は、いつも俺に何か褒美は要らないかと聞いてくれますけど、その、なんでなんですか…?」
    「お前は、当たり前のことを当たり前にやってくれるだろう?」
    「それは、普通のことでしょう?」
    「そうだなぁ。ただ、長く生きてるとな、一瞬前まで当たり前にあったものが振り返ると消え失せていることなんてザラにあるんだよ。」
    「……」
    「褒めてやれるうちに、褒めてやりたい。…まあ、俺のわがままだな。付き合わせてすまなかった。」
    そう言ってぬいぐるみを机に置こうをする隊長に「あの、」と声を掛ける。
    「うん?」
    「…隊長が、そのぬいぐるみの処分に困るなら、貸与という形で、お預かりします。」
    それではダメですかと隊長の顔色を伺うと何度か目を瞬かせた後で、「…そうか、頼まれてくれるか?」と微笑んで、もう一度こちらにぬいぐるみを差し出してくれる。
    「は、はい!ではお預かりしま、あれ、た、隊長…??」
    受け取ろうとしたぬいぐるみを、隊長が離す気配が無い。そろりと隊長をぬいぐるみ越しに見上げると、目がチカチカする。
    ああ、どうやら夜が明けてしまったらしい。
    隊長の後ろの窓から陽光が差し込んで、背の鱗がちかり、ちかりと瞬いて。
    「…いつもありがとう、ウテン。これからも俺と、俺の隊をよろしくな。」
    そう言って微笑んだ隊長は、いままででも見たことがないほど優しい顔をしていて。

    その後の記憶が、何にも無い。
    気がついたら宿舎のベッドで天井を見上げていた。横にはあのぬいぐるみが大事に壁に寄りかからせて立たせてあるから夢では無いのだけれど。
    あの言葉に、あの微笑みに何を返してこの預かり物を受け取ったのか。何一つ覚えていない自分に頭を抱えてしばらくジタバタすることしかできなかった。
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