人形部屋の隅、黙々と作業をする小右衛門の手元を眺める。
そこには己と同じ顔をした――否、もはや己のものとしか思えない程精巧に作られた又市の生首人形があった。
「相変わらずすげぇ技術だな。凄すぎて鳥肌が止まらねえや。」
作り物と分かっていても気分が悪くなってくらァな、と吐き捨てて視軸を逸らす。
見ていられない。
生首であるから、顔色も悪く生命を感じさせないように作られてはいる。
しかし生々しい皮膚の質感や生える毛の一本一本から、あるはずのない命の残滓のようなものが垣間見えて、又市は背筋が寒くなった。
確かにこの生首はこの仕掛けの肝である。多くの人間に目撃されて信じてもらわなくては意味がないものだ。精巧でなければ仕様がない。それは分かるが、ここまで手の込んだ作りにする必要があるのだろうか。多くに見られると言っても遠目であるし、どうせ燃やしてしまうのに。
なんだか胸がムカムカしてきた。
仕掛けに失敗は許されない。準備は万全にするべきだ。それは又市自身が一番よくわかっている。
だから小右衛門が手をかけてより本物に近い又市の生首を作ることに腹を立てるなんてお門違いもいいところだろう。
「相変わらず死体は嫌ぇか。しかし作り物だと分かりきっておるものにそこまで怯えるたァ肝の小せえ野郎だ」