日々の枝先検査入院として病室を堪能する日々も終わり、初めて「人間」の中に解き放たれる。
初めての人ごみ。初めての生活。
メッセンジャーの計らいか辻褄合わせのためか、ある程度の手持ちは用意されていた。幸い入院直後ということで就いていることになった休みにもなっている。そんな絶好の機会にやることはひとつ。
―――そう、タピオカクレープだ。
原宿の人気タピオカドリンク店にて。ブーム最盛期ではないにも関わらず行列のできるそこに彼らはいた。
「……、…………咲。すまない。疲労が大きい……」
「わ、わーーエッダさん大丈夫!?ええっとどこかで休んで……あううでももうちょっと……」
行列ができる、ということはそれだけ待ち時間も長いわけで。もとより貧弱なエッダの体力は限界に近づいていた。あたふたとしていると無情にも自分たちの番が来る。
次の方、と呼ばれる声。
「ええっとええっと、そうだ!」
ひょい、と音がしそうなほど軽く、細い身体が持ち上げられる。
「なるほど、これならば疲労に関係なく購入できる」
周囲のどよめきをよそにすたすたとカウンターに近づき注文をする。
「あ、これ可愛い。ストロベリーソーダ、と。あとホイップもください!」
「多様な種類がある。一番上のものが定番なのだろう。ミルクティーを」
会計を済ませて受け取り、胸を高鳴らせながら適当なベンチに腰掛ける。ついでにそばで売っていたクレープも買って。いざ準備は万端。
「いただきます、と言うらしい」
「そうなんだ。いただきます!」
ずず、すぽん。すぽん。はむはむもぐもぐ―――
「…………!」
「うえ~~」
反応は対照的に。お互いの顔を見合わせる。
「甘い?のかな。口の中がべったりして変な感じがするう」
「純粋な糖は人間によって初めてもたらされたものだ。生物はカロリーを得るために糖は際限なく採るよう進化している。…………」
「え、エッダさんは好きってこと?」
驚いたような咲の視線をよそに、エッダは自分の分のクレープを黙々と食べ進める。まったく進まない手元を見て、ぽつりと疑問を呟いた。
「……好ましい味ではなかったか?」
「え?う、うん、ちょっとびっくりしたっていうか、思ったのとちょっと違ったのかも」
うんうん唸って、ようやく感想を口にする。
「うん、私、これ苦手かも……一緒に来てくれたのにごめんね」
申し訳なさそうに笑う華やかな顔をじいっと見つめて、首を傾げた。
「私はこの味を好ましいと思うが、人間の嗜好は個々人によって異なる。私が好きだったのだし、咲が苦手であると知ることもできた。謝る必要はない」
それから結局ふたりぶんのドリンクとクレープを食べて、咲の好きな食べ物はないかとフードコートを巡って。
「私、初めてやるから…がんばって生き残ってね」
「命にかかわるものではないと思うが。覚悟はしよう」
慣れない高カロリー食品でエッダが寝込むことにはまだ思い至ってない2人であった。