灰燼の上にまた火は灯る弟子をまたひとり見送って、数日が経った。
元より特に目的地などない旅だ。この身で同行者も無しというのは危険だと重々承知しているが、軽々にこの力を使って審問にかけられるのも避けねばならない。
何より今は誰かといようという気分でもなくて、アードはひとり野宿の支度をしていた。
獣避けの焚火をたいて、水を沸かして茶葉を煮出す。ひと息ついたことだし明日に備えて寝るかと薪を崩そうと近くの枝を掴んだ。その時
『師匠。 』
ふと、そんなことを言った彼のことを思い出した。あの子は何と言っていただろうか。
けれど火には怯えるのに消すとどこか陰る目は鮮明に覚えていて、ふっと笑みが混じった息を吐いた。
「仕方のない子だ」
薪を普段より大きく崩し、明日までは残らないだろう小さな火種にする。
彼自身は灰になったとして、その記憶まで消してしまう必要はないだろう?
それを楔にして、僕たちは生きているわけなんだからさ。