その紙を染めた色自分には親の記憶がない。物心がつく前に死んだんだから当たり前だ。
その話をすると決まって憐れみの目を向けられるが大きなお世話だ。むしろ便利だとすら感じている。
だって最初からないのなら悲しみようがないから。尻尾がないことを悲しいと思うか?100年前の先祖に会えないことで夜な夜な枕を濡らすか?自分にとっちゃ実の親もそんなものだ。
だが同じ孤児院の子供にとってはそうでもない。不安定だったり、中には捨てられて大人を信じられなくなっていたり。そういう奴らを楽しませて、喜ばせて、輪の中心にいる。子供のちっぽけな自尊心だ、それでじゅうぶん満たされた。施設の大人たちも自分のことは「手がかからないし皆をまとめてくれる良い子」として扱った。
慈善事業だとかでやってきた手品師にみんなが喜んでいたから、本をねだって練習してみたりもした。
そんな中でひとり、輪の中に決して入ってこない子供がいた。自分より少し年下の、やたら頭のいい子供。どれだけ『誘ってやって』も無視するものだから、何となく面白くなかったのを覚えている。
ただあいつは薬が嫌いなようで、大人たちが彼を説得する時は自分を頼ってくれるのは愉快な気分だった。
絶対に笑わせてやるだとか妙に意固地になって、あいつに披露するためだけに派手なものを練習して。とうとう笑ってくれたときは凄く嬉しかった。
確かその日からだ、少しだけ彼と距離が近くなったのは。
あの後も時々体調を崩す彼に、そのたび新しい手品を披露するようになった。喜ぶ彼に自尊心でない別の何かが満たされた。
ある日、突然彼がいなくなった。
急に引き取られることになった、なんて言ってたけど嘘だ。子供に嘘を吐く大人ほどわかりやすいものはない。
その日から妙に施設が豪華になった。お金がないって言ってたものが急に新しくなったりして。
それを結びつけるのは短絡的だったのかもしれない。けれど結果的には正解だったらしい。
あいつを見つける。行方不明を探すのは警察官らしい。ならそれになろう。
喧嘩は強くない。代わりに頭は回る方だ。なら機械に詳しくなればいい。
いつの間にか手品はしなくなってしまった。
やはりあの施設は人身売買をしていたらしい。金の動きが不自然だ。
売られた先は偶然にも別口で追っていた犯罪組織だった。
なら丁度いい。迎えに行こう。
真白はきっと今も頑張っている。
サテ、上手いこと潜入できたたァいえどうやって情報を集めましょうか。
地理を見て回るんなら散歩でいいが、ヒトからしか得られない話もあるだろう。
パッと目を引いて、会話の切欠にできるような。
……あァ、手品なんか丁度いいか。