天色の町から町をペンギンが埋め尽くす、なんて表向き珍妙で平和な事件からひと月ほど。
カタカタ、カタカタとからくり特有の音を鳴らしながら例の白黒の鳥……に似た機械が道を走っていた。
「っし、自走機構は問題なし。あとは耐久性テストだな」
後ろで青年の声がする。図面に何事かを書きつけるとからくりに駆け寄り、階段に踏み込む前にひょいと抱え上げた。油や煤で汚れた手が塗装にぶかっこうな色を足す。
「あー……塩水で落ちっか?これ。あいつこういうの目敏いし汚れにくいよう加工するか?でも重くしすぎるのはなあ」
汚れに気付いてまず頭をよぎったのは、明るく振る舞うくせ変なところで気を遣う妹分のこと。放っておけなくてつい作ったはいいものの……
「――逆に思い出させちまうかなあ」
つい、ぽつりと『兄貴分』らしくない言葉がこぼれる。奇魂石なんて入れてないはずの腕の中にある顔が、不思議そうにカタリと頭を傾けた。
物思いにふけっているうちに視界の下から光の反射が映りこむ。からくり仕掛けのペンギンを地面に置いていよいよそちらに目をやれば、どこから嗅ぎつけてきたのか既に浜辺では橙色が揺れている。
最後の一段を降りればもう目的地はすぐそこだ。
騒がしい妹分がいる、少しだけ広くなった
天色の海へ