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    okm_tmsb

    @okm_tmsb

    自探索者長編やif話はエブリスタにてhttps://estar.jp/users/61829929

    短編とセッションバレorシナリオバレのあるものを
    ポイピクにて取り扱っています。

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    okm_tmsb

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    松川智治と同期警官組の話。
    シリアスが張り切っている。
    「抱擁」は黒川衽視点。
    合わせて読んでもらえると嬉しい。

    銃声背に当たる陽を何度熱いと感じたろうか。
    心に当たらなくなった日を何度冷たいと感じたろうか。
    正解を教えてくれる人はずっといなかった。心に落とされた槍を掴んでは
    これが愛かと後生大事にとっていたものだから、大事な時になって初めてこれが槍であったことに気づいた。
    猫が一鳴きする間には俺の居場所は消え去っていて、猫を一撫でする間に世界が顔を出してきた。
    ああ、朝だと思って顔を上げれば、そこにはいつもと変わらない光景だけがあって、いつしか熱さも煩わしくなった。

    言葉がなぜ言の葉と書くのか。
    考える暇も今までなかったが、思えば、葉とはその先に何かが芽吹くものなのだ。
    形はそれぞれで、かぶれることもあれば、切れることもある。
    時に柔らかく包み、熱い日を遮るだけが葉ではない。
    その裏でいつも息を吐き、息を吸う。
    そうして辺りから吸ったものがそれを養い、それから吐き出されたものがあたりに漂う。

    だから人はその人の吐き出し漂うものをその人の物として判断する。
    なんて、どうだろう。そうだとしたら酷く辻褄が合うのだ。
    いや、都合がいいのだ。

    松川智治がふと背伸びをした。
    手に持ったスマホは反射する日を諸共せず熱苦しい太陽に向かう。
    聞きなれたシャッター音があたりに響いて、周囲の人の目が自身に向く。その眼はどこか訝し気で、熱に充てられた不審者と非難されているようだった。
    そうして心に当たらなくなった日が、“非”でもあることに目を瞑る。
    そうか、この音も言の葉になりえるのかと、ノンバーバルな世界での自身を顧みた。

    ふらふらと歩き出し、さっき撮った写真を見る。
    タップすることすら億劫だったが、それでも、写真に写った景色で、ここがどこなのかはっきりした。
    街灯も店もなければ、それでも人通りのある横道にそれた路地だ。
    おそらく自身が向いている方向からして、目的の駅とは離れてしまっているなと踵を返す。

    「まっちゃん!」

    と、途中まで返しかけた踵を止めるように肩を掴まれて揺さぶられた。
    ふっと視線を上げれば、心配だと顔に書いている相棒の顔があった。
    「こんなところで何してるの?」と、問いかけられるだろうなと察しをつけて「迷子になった」と素直に伝えるが、相棒はそれでは納得していない様子だった。
    それでも踏み込むことはせず、ただ淡々と俺の手をひく。
    まるで子供のようだと思ったが、俺に手を引いてくれるような親はいなかったし、拒否するのは気が引けた。

    この心配性で正義感が強いお節介焼きを、ここまで不安にさせているのは自分なのだと自覚はあったからだ。

    「凪や智成との約束の時間に遅れたら、まっちゃんのせいだからね。」
    「おう。」
    「・・・・ねぇ、今日本当に行くの?」
    「ああ、復職のためには必要なことだからな。」
    「でもわざわざ屋外でなくても。」

    衽が言っているのは、今日向かっている場所についてだ。
    屋外射撃場。それはこの街にはない。
    警官の間ではたまに使われるために、よく行っていた場所だが、何をそんなに不安になっているのか。

    俺が復職するためにはいくつかの条件が必要だが、その中でも、射撃の腕は、誰にも言えないが、確実に落ちているのだ。
    もしもの時に役に立たないなど、もってのほかだ。
    何が許しても、俺が俺の復職を許せない。

    銃は日本において、警官や自衛官など一部の人間に許された武力だ。
    持つものが間違えればそれは重罪であり、それはただの暴力に成り下がる。
    それは、どんな理由があってもだ。
    ならば、これは俺にとって何よりも必要なことで、それに相棒を筆頭に俺の信頼のおける人物たちの判断が必要だ。
    俺に銃を持つ資格があるのか。否か。俺にはわからないのだ。

    黙り込んだ俺に相棒は何も言わない。
    小さくため息を付いてまた俺の手を引く。

    光のある通りに戻ってきて、俺の手から、相棒の手が離れた。
    一瞬動揺したが、人目の多い本通りに戻ってきたのだから当たり前かと考え直して、駅の方を見る。
    店の並びや光の並びが明確に俺に方向を教えてくれる。
    俺はまだどこか不安げにしている相棒の横を抜けるようにして駅に向かって歩き出した。相棒はその後ろを付いてくる。
    異様な光景だなぁとなぜか他人事に思考が動く。

    「隣じゃねぇの。」

    不思議と口に出てしまった言葉は、やはりの言の葉になったのだろう。相棒は傷ついた顔をして俺の横に並んだ。
    まさに気まずい空気が横並びに流れては消えていく。

    「おーい!」

    その流れを断ち切ったのは懐かしい級友の声だった。

    「智治!衽!」
    「何だ二人とも随分とふさぎ込んでいるな」
    「第一声がそれなんだね。まぁ、凪らしいかな。」

    俺の横から一歩前に衽が出る。そうして二人と話し出す。
    黒川衽。
    俺の相棒で、誰よりも理解があり、正義感があり、優しい男。

    凪川ミツル。
    俺の部下であり同期。冷戦沈着で、まっすぐで、厳しい男。

    穎川智成。
    俺の同期で、誰より鋭く、聡明で、明るく、読めない男。

    「二人共。久しぶりだな。」

    俺が声をかければ、二人はやはりか、どこか納得いかない顔をしていた。
    文句を言いたげな、それでいて、言っても無駄なのだとあきらめた顔だ。
    少し視線をそらして、それでも話は続ける。「わがままに付き合ってくれてありがとう。」と、礼を言えば、俺の頭を智成がわしゃわしゃと撫でまわす。
    いつもなら嫌がるところだが、今はその気持ちにはなれなかった。

    「きもちわりぃーなぁ!お前は昔からさ!振り回してやろう位の気概でいいんだよ!
    オマエが降り回そうと思わなくても俺らは勝手に回ってんだから」

    それが、なぜか刺さる。言の葉だ、智成の纏う空気はいつも澄んでいる。
    俺が隣に居たら汚してしまうんじゃないかって、不安になった。
    それは明確な自己嫌悪だった。
    刺さって抜けない言の葉が心にかぶれを広げていく。でもこれはたぶん、一時的なアレルギー反応だ。
    そう言い聞かせるので精いっぱいだった。

    それが息として漏れてしまったのか、そっと撫でまわしていた智成の手が離れていく。

    「ほら、電車が来るぞ。」

    そう言って少し乱暴に凪川が俺の手を引っ張る。
    こいつは怒っているのだ。
    俺の行動を、何一つも言うことを聞かない俺のわがままを、一身に請け負うことになったことを怒っているのだ。

    わかっていたはずで、それでもここに呼んだのは俺なのに、また何かが刺さった。
    抜こうと踏ん張れば踏ん張る程、深く刺さっていくそれは、たぶんとても鋭利だったのだと思う。

    引かれるままに改札を抜けて、電車に乗り込み。向かい合う四人席に座る。
    三人は終始懐かしい話に更けていたが、俺にできるのは相槌を打つことくらいで、俺が呼んだくせに最低だと、自分で自分の傷口を広げていった。
    目的地に着くまでどんな話をしたかなどはよく覚えていないが、流石に四人で歩くとなると、隣にずっと誰かいる状態になるため、俺が迷子になることは無かった。

    店に来るのは久々だったが、顔なじみのメンバーがそろって店についた時には神妙な面持ちになっていたからか。
    店長は驚いた顔をしていた。

    「今日は貸し切りだからな。目標物も出しっぱなしにしてある。日本警察の腕前を見せてくれ。」

    そう言って気前よく、一番さくらに近い型の物を貸し出してくれた。

    いつもなら何かしらゲーム形式をとったりもするが、今日はただ端的に屋外で目標物を撃ち抜くだけだ。
    平素であれば、銃の腕前は衽と凪川がトントン。俺と智成がトントン。
    衽がなんだかんだ一番上手だと思うが、うまい事手を抜いていることも知っている。

    しかし、今日はその衽が一番に銃を構えた。きれいな立ち姿で最短で目標を捉えて引き金を引く。
    それは見事に目標を打ち抜いて行った。

    そして、俺の心臓はその音に異常なほど反応した。

    腹の傷に鈍く響いた余波が心臓にまで達した。
    そんな感覚だった。
    狭窄しかけた喉に息が詰まってしまって、突発的にひどくせき込んだ。
    流石にそれに周囲も気づいてしまって、一瞬俺のために全員の動きが止まる。

    「いい」「なんでもない」「大丈夫だ」

    そのどの言の葉も息にすらならず、カヒュっという喘鳴に近い奇声だけが零れ落ちた。
    意識が遠のく中で、自分が膝から崩れ落ちたのだけが、理解できた。
    後はもう、何も見えない暗闇に落ちていくだけだった。
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