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    StarofGoldtree

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    StarofGoldtree

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    DeCOの情報漏洩になるため、音楽面で取り上げるメディアにはあまり素性や経歴を話さないファイナル氏。
    でもDeCO職員には気兼ねなく話してくれるようですね。

    #対人外国際組織_DeCO

    ファイナルアンサー15歳。当時俺は、同級生たちと楽しくバンドをやっていた。担当はボーカル。このバンドと最高のメンバーで頂点に登りつめたいと思っていて、実際それだけの実力が俺たちにはあった。
    でも俺が病気にかかってしまい、入院して喉を手術することになった。簡単な手術だと聞かされていた俺は、リハビリをすればすぐにでも歌えるようになるだろうと軽い気持ちで考えていた。
    ……手術を執行した医者は悪魔だった。俗に言うヤブ医者だったのか、本当に悪魔にとりつかれていたかはわからない。
    病気は取り除かれたが、代償として声が出せなくなってしまったんだ!ボーカルはバンドの顔と言ったって良いぐらい、聴く人々の印象を左右する。医者はそのあと行方をくらませ、連絡もつかない。
    絶望のどん底に叩き落とされた気分だったよ。なにもかもがおしまいだと思った。俺がこんな状態のままバンドを続けるのは、何より俺が許さなかった。
    メンバーは惜しんでくれたが、バンドを解散させた。……今思えば酷なことをしたよ。全員に見えていたはずの頂上の光を、俺だけ叩き落とされたからって全員見えなくさせてしまったんだから……。

    ある時、別のちゃんとした手術で俺の声が戻るかもしれない、と知人のツテで連絡が入った。手術費用が異様に高かったが、声が取り戻せる可能性がわずかでもあるのであれば断りたくなんてなかった。
    それからはバイト漬けの日々。たくさんの職場を渡り歩いたが、やはり声が出ないのは不便だったし、手話や筆談もイライラした。一刻も早く俺の声を地獄から取り返して、悪魔たちにも届くシャウトを響かせてやりたかった。メンバーたちとの輝かしい日常は取り戻せないとわかっていながらも、彼らとファンたちが誇ってくれた最高の日々を生きた証拠でもある俺の声を元に戻したかった。
    そんな中見つけた仕事が、ここ『DeCO』だ。特殊な仕事だからか給料も高かったし……ね。当時は支給武器のライフルを担いでは同僚たちと悪霊退治を繰り返していたよ。

    ここで仕事を始めて2年、ライフルも手に馴染んできた頃。俺は依頼のあった現場へ同僚たちといつものように向かった。
    とある町の片隅。『殺人箱』、関係者からは『ミミック』と呼ばれるようになったライブハウスがその日の活動場所だ。
    事前調査によると、数年前に営業終了を余儀なくされたライブハウスらしかった。地元の会場としても人気で、多くのバンドマンとファンに愛されていたそうだ。
    事の発端は営業最終日、地元でも人気で実力のあるバンドによる盛大なライブが行われ、美しくその歴史にピリオドを打った。……って言えたらよかった。終わってしまったのはライブハウスだけではなかったのさ。
    最後に全員で乾杯をして、一斉にコーラを飲み干したんだが……そのコーラに劇薬が混ぜてあったんだ。死んだんだよ、皆、皆だ!その場にいたバンド仲間たちも、ファンも、最後に舞台に上がってくれたオーナーも!皆!!お前にはわかるか、笑顔と涙を分かち合いながら飲んだ一杯のコーラが、俺たちから笑顔も涙も、夢も希望も……命さえ奪って……一週間後にはメジャーデビューするからって、テレビでの再会を誓ったのに……クソッタレ…………
    ───すまない、話を戻そう。大量殺人の犯人はとある宗教の狂信者で、ライブハウス跡地に宗教支部が建つ予定だったから少しでも早く建ててほしくてやったのだそうだ。
    だが犯人が捕まって事件は解決しても、人が死んだ事実に変わりはない。ましてや、スターになる夢を理不尽に絶たれたバンドマンだ。そのまま地縛霊になって、ライブハウスに取り憑きライブハウスを撤去しようとする人々を怨念で苦しめる哀しき悪霊に成り果ててしまった、ということだった。

    「建物の中に入らなければ事件は起こらない」と報告を受けていた俺と同僚たちはミミックの口の中に堂々と入り、俺は漆黒のライフル、同僚はナイフ・ハンマーを闇に溶け込ませた。
    するとどうだ、外からは全く聞こえなかったのに、ライブの途中から参加したみたいにロックな演奏が響いているんだ。
    腹に重く響く重低音、耳をつんざくギターのシャウト、楽器に負けないどころか楽器たちをまとめ、ひとつの曲に繋ぎ合わせている伸びやかな歌声。まるでセイレーンの巣に入り込んでしまった航海士のような……
    俺は仕事も忘れて聞き惚れた。その音楽はあの日の俺たちみたいだったから。悪霊の能力なのかもしれない、と頭の片隅で思いながら、ここでなら死んでも良いとすら思った。
    しかしすぐに我に返ったよ、同僚が声をかけてくれたんだ。でもそれは俺を救うための言葉じゃなく、
    「ここ……やけに静かすぎないか?」
    どうやら俺には聞こえるこのメロディーが、他の同僚には全く聞こえていない……おかしいと思った次の瞬間、同僚の背後から悪霊と思われる影が伸びた。俺は護身用に支給されている銀の砂を悪霊にぶつけようと投げたが、素早く壁に身を潜めてしまった。
    そこでひとつの予測が頭をよぎった、この悪霊は音楽に流通していない人たちをすべて犯人だと思い込み、殺そうとしているのではないか?と。フフ、見事な推察だったよ。あとの同僚は静かすぎる耳鳴りと寒気に襲われ、俺だけが逆に高揚している。この悪霊たちは人を殺したいんじゃない。音楽を愛していて、彼らの音楽を汚した誰かに行き場のない怒りをぶつけているんだと。
    俺は同僚たちに俺だけが狙われていないであろうことを伝え、同時に、このまま俺だけ取り込まれるか俺がこいつらを取り込むかの賭けをしたいと伝えた。
    死ぬのはよせと皆が止めたが、俺には死なない自信があった。だから大丈夫だと皆へサムズアップをして、血で錆びたステージに上がった。

    そうだ、俺はどうしても、ここで歌いたくなってしまったのだ!
    出ない声なんてどうでもよかった、聞こえてくるメロディに自分の喉から出る掠れた空気をのせた。これだけで、俺は生きていることを実感できた。涙は勝手に流れていたし、止める気もなかった。闇に包まれたステージにはいつのまにかライトが照らされ、オーディエンスたちが一緒に歌う声が聞こえた。
    入り口から見ていた同僚によると、この時5人の影がステージに現れ、俺と一体化したらしい。ああ、もう駄目だと全員が思ったその瞬間、……俺の喉から歌声が聞こえてきたんだそうだ。
    本当に俺はこのライブハウスに取り込まれ、同時に取り込んでしまったらしい。
    俺が歌い終えた後、5人の影が俺を取り囲み……握手の手を差し出された。ステージで歌う俺を見て取り憑き、フフ……俺の中に眠るカリスマ性に心を打たれたんだろう。俺も力強く全員と握手をしてね、それがまさか『契約』になってしまったようだ。人ならざる者と契約できることは知っていたが、まさか自分がすることになるとは思わなかったから驚いたよ!
    悪霊が静まり、俺の声が戻るという奇跡に立ち合い、感動して泣きながら駆け寄ってきた同僚たちと共に事務所へ帰った時に契約報告書に書いたさ。
    「己には声と力、契約対象には生と未来、双方には夢と希望を約束した」ってね。

    ああ、声だよ。声が戻ってきたんだ!全然使っていなかったからヒョロヒョロの掠れ声だったけど、そんなことは重要じゃない。ないものをあるようにするのはとても大変だが、元々あったものを元に戻すのにはさほど時間はかからなかったさ。
    え?声が戻ったなら何故この仕事を辞めていないかって?フフ……良い質問だね。手術代も浮いたし、俺もここをさっさと辞めてしまおうと思っていたんだ。ステージで浴びた光を思い出したら、早くライブがしたくてたまらなかったからね。
    でも俺の声に価値がついたことに気がついてしまったんだよ。さっき報告書に書いたって言っただろう?「己には声と力」って。取り戻した声が『異能』だって言われたのさ。霊を浄化する讃美歌のような、鎮魂歌のような……自分でもうまく説明ができないんだけどね。つまり、ここでも歌って良いってことだ!
    俺は即刻、契約した5人とバンドを組んで、依頼現場でライブをしてみたんだ。まあ5人は実体がないから、異能の声を出すには一人が俺に取り憑かないといけないんだけどね。そうしたらどうだ、人の形をした幽霊たちは成仏してくれたし、人の言葉を理解する怪異はおとなしくなるんだよ。……嬉しかったな、音楽の力が目に見えてわかるんだから。

    ……ん?元のバンドの仲間はいいのかって?ハハハ!何を言っているんだ、DeCOの職場じゃなく、本物のライブ会場で歌う俺を見たことがあるだろう?
    そうだ、世界的ロックバンドの『alpha』。あのメンバーはまぎれもなく、頂点を目指し共に走っていたあの日のバンドメンバー全員なのさ。
    俺も彼らなしで歌おうなんて思えなかったから、契約報告書を書き終えた直後には全員に連絡を取った。
    「声が戻った。あの日々も空いた時間も取り戻せないけれど、もう一度同じステージで光を浴びるチャンスをくれないか」ってね。全員の返事は偶然にも同じだったんだ、「断るやつがいるか?」だってさ。
    ……本当に良い仲間を持ったよ。彼らはいつ復帰できるかもわからない俺を待っていてくれただけでなく、それぞれ俺のために少しずつ、俺の喉の手術代を貯めていてくれたんだよ。
    まあそんな大層な手術もなくなったわけだ、貯めていた金を軍資金として新しく機材を揃え、俺たちのバンド人生2ndシーズンが開幕するんだが……その前に、俺と契約した5人とバンドメンバーとの顔合わせをすることにした。
    声を取り戻させてくれた新たな仲間への感謝と、パワーアップしたこの声で救える魂があるならDeCOでも引き続き働きたかったからね。

    この機会だ、君にも紹介をしよう。まあ実体がないから何かに取り憑かないと姿がわからなくて、紹介がしづらいんだが……ちょうどいい、チェストに乗せてあるこのテディベアに入って動いてもらおうか。
    まずは……ちょっとビビりな男泣きアレックス。担当はボーカル。ギターもできる。俺が異能で歌う時はアレックスが取り憑いて一緒に歌ってもらっているよ。まあ自分が幽霊になっても幽霊が怖いみたいで、俺が励ましながら歌っているけどね。
    次は熱血野郎で情に熱いボブ。担当はギター。ジュウドウの心得があるから、揉め事があるといきなり俺に取り憑いて喧嘩両成敗してくれたりするんだ。頑固で喧嘩っ早いのがたまにきずだね。
    次は静かなる食いしん坊チャールズ。担当はドラム。機材の調整や修理が得意で……チャールズ?起きてるか?……うん、寝るのも得意なんだ。生きていた頃はどんな場所でも寝ていたらしい。
    次はムードメーカーお気楽ダニエル。担当はベース。おしゃべり好きな目立ちたがりでね、よくぬいぐるみや野良猫なんかに取り憑いては可愛がってもらっているよ。
    最後は5人のリーダーで頭脳派のエヴァン。担当はキーボード、サブボーカル。何でもそつなくこなせて、個性豊かな4人も上手くまとめられるんだが……気難しい性格でね。小言が多い先生みたいな感じさ。
    うちのバンドメンバーはこの5人とすぐに打ち解けて、取り憑かれてみたりセッションしたりと毎日お祭り騒ぎだった。昔よりもより眩しくて、刺激的な日々を送れているよ。

    ミミックの中は闇を照らせば、失われてしまった宝物でいっぱいだった、ってことさ。まあ俺が全部拾ってしまったからなくなってしまったんだがね!
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