最低な男ヒーローであっても、一応は学生の身分。
映画で見るような爽やかな青春とやらを囓ってみたいし、誰かに想われる甘い恋愛だって、してみたい。
時折浮かんでは消える、そんな欲。そんなものを強く意識していた、ほんの一瞬だったからだろうか。
「お前の心に別の人がいるのは分かってる。本懐を遂げるまでの繋ぎでも良い。些細なことにでも利用してくれて構わない。だから、俺と付き合ってみないか」
穏やかで、自分に向けられていなければ尊ばれるほどの年相応の、大人たちからすれば懐かしがられるような可愛らしい好意。それに甘えてしまえ、と彼は言った。
あまりにも彼が報われない惨たらしいその提案は、自分たちのためにも断るべきだ。せっかく息が揃い始めたというのに。要らない亀裂が走ってしまう。
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