飲酒の効能膝の上を我が物顔で陣取ったこどもからは、年齢に似つかわしくない多量のアルコールの匂いをさせている。
珍しく不機嫌を滲ませて舌に噛み付いて、普段からはおよそ聞いた事がない低音で行われた叱責の機嫌取りに強請られるままに与えたアルコールは効果覿面で、険どころか箍まで外れてしまったらしく先程の怒気とは打って変わって情事の時のように可愛らしく甘える腕はしっかりと首に絡みつき、黒曜の瞳は生理的ではない大洪水に見舞われている。
あまりにもぐずぐずと嗚咽を漏らしながらしきりにまどか、まどかと此処には居ない弟の名を呼び抱きついてくるので、一口分含んだ甘ったるい酒をこどもの口内に流し込んだ。
健気にこくりこくりと嚥下を繰り返しては聞きたくない言葉ごと飲み込んでいき、さらに瞳が溶けていく様を見下ろしてぐずるこどもをあやして僅かばかり溜飲が下がる。
「・・・ま、どか」
口に残ったアルコールに顔を顰めていると、また甘えたがりのこどもが誰かの名を呼んだ。
返事はせずにいると、それが不満だったのかまた泣きじゃくりながらぼろぼろと涙と一緒にとりとめのなく言葉を吐き出し始める。
「おれがまどかって呼ぶからおこってるの?」
「でも、おれだってきをつけてたもん」
「みきだっておぼえたけど、ずっとまどかって呼んでたんだもん、まちがえちゃったの」
「みきだって悪いでしょ、さいしょからわたしがまどかって呼んでたのに、なんでいままどかじゃないの」
「こっちがさいしょにまどかだったのに、あっちもまどかだけど、こっちがさいしょだったんだもん」
「あさぶくろ、かぶってたからわかるもん、まちがえてないもん」
ぎゅうぎゅうとしがみつくようにしながらまるきり幼子が駄々を捏ねるような口調で間違えてないと主張するこども。
酔いが拍車をかけているのか舌もよく回る。その割に発音がたどたどしく内容に意味不明な点が多いせいで、理解出来て飲み込めたのは一つだけだった。
「・・・・・・まどか、って私の事です?」
「さいしょっからそうやっていってる!」
初耳です、ときぃきぃ癇癪を起こす子供の背を撫でながら、己の勘違いとこどものあの瞳やら言動の意味がカチリと嵌まってしまった。
異様な喉の渇きを覚えて、手近に引き寄せた缶サワーのプルタブを片手で引き起こせばぷしゅ、と気の抜ける音がする。
開けたそれを一息に飲み干せば、まあ思った通りちくちくと喉を刺す僅かな痛みとともに甘い味が口いっぱいに溢れた。
腕の中のこどもは、いつの間にか大人しく眠っている。
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こたえあわせ。