「どうするんですか、あれは」
不機嫌そうに零された、彼らしくない気遣いの言葉。
思わずぽかりと口を開けて凝視してしまうと、増々機嫌を損ねたのかただでさえどんよりとしていた瞳が更に濁ってしまったような気がした。
それなりに長くなった付き合いの中でも彼が他人を気に掛ける素振りを見せるのは、まだ片手で足りる程しか見た事がない。
こういう時ってお赤飯とか炊いた方がいいのかしら。
向こうに聞こえるとまた嫌そうな顔をするだろう事を思いながら、あれと呼ばれた見ず知らずのここがどういう場所かもしらないらしい彼の事を思う。
「どうもしないよ。注意はしておいたけど結局それでどうするかは自己責任だしね」
「死にますよ、あれ」
「うーん…」
此処の神様とはまだ話してないけれど、積極的に殺したいというよりはとにかく出て行って欲しい傾向が強そうな感じだ。物理的な干渉をし始めているけれど、まだ怪我人が出ているぐらいで済んでいる。
まあそれも偶々だと言ってしまえばそれまでだけど。
多分、彼が危惧してるのはこれなんだろう。
「ふふ、気になる?」
「別に、そういうわけではないですけど」
他人を気に掛ける余裕と他人の事を慮る思考が出来るようになったのは僕にとっても、魔皇君本人にとっても良い傾向に違いない。
つい、とふてくされるように逸らされた視線の先にはあれと呼ばれた彼とはまた違う人が映っている。
「祭君と緋純ちゃんは僕が見てるから、気になるなら助けてあげたらいいじゃない」
「だから、別に気にしてなど……」
そうは言ってもその見ず知らずの彼らを視界からは外していない。
最早わかりにくさが一周してわかりやすい程に。
「いいじゃない。なにも全員守ってあげなくても、此処は自分でなんとか出来ない人の方が少ないんだから」
「…………」
「気になる人がいるなら守ってあげてよ」
ねぇ、僕のかみさま?