可愛い子の可愛い格好は可愛いに決まっている。最近、着せ替えというかコスチュームプレイというかとりあえず気に入った服(と呼ぶには布が少なくて露出が多すぎるやつもあるが)を着せて愛でるのが流行りであるらしい。
愛でられるのはやぶさかではないけど、それにしたって選んでくる服の選択肢がセクシー路線はまだしも俺に可愛い系を当てるのはどういった思考なんだろうか。
そういうの、ラテとみきのが可愛いから似合うと思うんだけどなぁと一度零したらみきからは「佳月も可愛いノデ」と返されてしまった。まあそういうことならしょうがない。しょうがないけどやっぱりまだ実際着てくれと言われて実物を見ると抵抗が有るのは許してほしい。
みきが今日うきうきと持ってきたのはピンク色のひらひらした薄い生地に華やかなフリルがふんだんに盛られたセクシーと可愛いの両取りみたいなどこからどう見ても女の子ようのやつだ。
普段着からして黒と白しか身に付けていないのに柔らかい色合いかつ持ち上げて見れば向こう側の壁が透けて見える程の防御力の低さに、自分が着ている所を想像した時の違和感が酷過ぎてなかなか二つ返事では頷けない代物だった。
しかも今回は裏切り者までいた。
普段ならみきが持ってきたえっちな衣装を涙目で拒否しては最終的に着せられて恨みがましく睨んでいる可愛いラテさんがあろうことか今回は俺に着用を勧めて来たのである。
実際にみきが取り出した服を見たときはひぇとかなんとか変な声を出していたのにおっかなびっくり見ていたかと思えば、みきに便乗して「佳月くん、着てみない?」ときたもんだ。
ブルータスお前もか。
「ホラ、ラテもこう言ッテますシ!」
思わぬ後ろ盾を得たみきがぐいぐい来る。すごい来る。その後ろではラテが防御力の低い布を持ち上げて可愛い、と小さく呟いていた。
この間のチャイナの時は自分で着るのは抵抗していた筈だけど俺が来て見せたのは割と満更でもなさそうだったもんなァ。
あれよりも色や装飾が華やかな今回は『可愛い服』として認識しているのか、そうか。
だからといってそれを俺に勧めて来るのは全くもってわからないけど。
まあ普段は母性が強い傾向のラテもやっぱり男の人だってことなんだろう。
・・・・・・持ってきたのはみきだけど、俺に着て欲しいって事はそういう事だよね。
「・・・・・・ちょっと、お待ちください・・・・・・・・・・・・」
盛大な溜息を吐いてしょうがなくですよという体を取りながらまたどうやって着たらいいのか分からない服を拾い上げる。
結局は俺だって好きな二人からねだられたらどれだけ抵抗があろうとも求められたら応えてしまう程度には甘い自覚もあるわけで。
つくづく、惚れた弱味というのは厄介だ。
のそのそと着替えを始めながら、みきがにっこりと笑っているのが見えた。
「ラテも今度着て下さイネ♡」
「え」
***
自分で付けられなかったチョーカーをみきに留めて貰って、とりあえず着替えは終わった。
「どーぉ、可愛い?」
くるりと回って見せれば動きに合わせて薄い布がふわりと広がる。
着替えてる間に大分吹っ切れて開き直る事にした。
どうせ二人しか見てないし。見せないし。せっかく着て見せたのだからせいぜい盛大に誉めそやして貰えれば、まあ今回のテンションと次回へのモチベーションにも繋がるというものだ。
「よくお似合いデスヨ」
「当然~」
セットになっていた下着も穿くところから見ていたおかげでしっかりとお気に召したようで晒している首筋や背中にキスをされながら褒めてくれるみきの髪をお礼に撫で返しながらドヤっていると、もう一人の反応がないなぁと思い顔を覗き込んでみた。
「せんせ?どうかした?」
「っ!」
ええ、何その反応。
折角リクエストされた可愛い服を着たのに顔を背けられてしまった。
ちょっとだけ耳が赤くなってるからもしや照れているのだろうか。照れるのはむしろ俺の方ではないかと思うんですけど、先生?
ちゃんとしっかり見て目に焼き付けて貰わないと草葉の陰で泣いている佳月君のプライドとか羞恥心的なものが浮かばれないと思いませんか。
幸いにも標的はこちらを見ていないので、不意を突くのは「1+1=?」よりも簡単だった。
「ラテが見たいっていうから着たのに。褒めてくれないの?」
ラテの膝の上に乗って、首に腕を回して抱き着いて少し拗ねたような声を出せば「っ、」と小さく息を呑んで固まってしまった。
うーん、思った以上の反応で嬉しいような物足りないような。
「・・・せんせぇが褒めてくれるまでキスするね。よーいドン」
「んぅ」
ちょっと勢いを付けすぎてラテごと後ろに倒れたが包容力の高いベッドなので痛みはないだろう。
驚いて声を上げようと出来た隙間に舌を滑り込ませると、びくりと強張ってしまったが流石にもう噛まれはしないので特に気にせず絡めたり吸ったり擽ったりして遊んでいると、鼻にかかった声と一緒に肩を押し返される。
でも、まだ褒めて貰ってないので。
ラテの頬を両手で挟むように固定してわざと大きく水音が立つ様に貪っていると、後ろから持ち上げられて強制的に引き剥がされた。
「・・・なに、みき?」
「そのままデハ、ラテが喋れませんヨ」
「だってぇ」
それはそうだけど。
褒めてくれないんだもん、と元凶でもあるラテの方に視線を向けると目が合ったかと思えば赤い顔で違う方を向かれてしまった。
「えっと、か、かわいいわよ、もちろん。すごく。似合ってる」
「えー、じゃあなんでこっち見てくれないの。似合ってるんでしょ」
「ま、待って!私が悪かったから・・・」
ラテとみきのリクエストなんだからもっと見ていいよ!とアピールするべくずずいと近寄れば何故か謝られながらさっき脱ぎ捨てた上着を着せられてしまった。
・・・・・・そういうご趣味なのかな?
まだ赤い顔をしているが丁寧に前ボタンまで留められたのでそういうご趣味なのかもしれない。付き合い始めてしばらく経つけどまだ知らない事もあるんだなぁ。
まあ満足してくれたっぽいのでじゃあ次に行ってもいいかとラテのシャツのボタンを外していくと、すぐに両手を捕まれて焦った顔の本人に止められてしまった。
「佳月くん」
「うん?せんせぇ自分で脱ぎたい?」
「そうじゃなくて!どうして私まで脱がせるの!」
どうしてもこうしても。
この状況でえっちしない訳が無いと思うんだけど。
みきだってずっと良い子に待ってますよこれ。
ある意味俺に対してはラテの方から誘ってきたようなものなんだけどなぁ。
・・・・・・もしかして、なんだけど。
「せんせぇって、知らないで言ってたのかな」
「?」
「男が好きな人に服を贈るのって、脱がせたいって意味だよ」
「・・・ッ」
「持ってきたのはみきだけど、ラテも俺に着てみせてって言ったからそういうことだと思ったけど」
ねー?とみきの方を見れば、にこにこと笑っているので勿論それだけではないけど、そういう意味も含んでの最近のチョイスだろうと思う。
どうやら本当に他意は無かったらしいラテは否定も肯定もせず赤くなったり視線が行き場なく彷徨ったりとわかりやすく動揺しているのが伝わって、思わず笑ってしまう。
ただ純粋に見たかっただけという反応をされるのも、それはそれで大変むず痒いものがある。
ちょっとだけ持ち直した機嫌で、ラテの首筋に痕を残すとびくりと大きく震えた。
「かづ、佳月くん?」
「ふふ、きょうは、いっぱい可愛がってくれていいよ、せんせ」
二人のために、似合いもしない可愛い格好をしたので。
それこそめいっぱい可愛がって貰わないとせっかく着た甲斐が無いというものだ。
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リクエスト納品。
でも主導権は佳月なママ佳なんだなぁ ゆりを