迷子×2前世で戦争経験が有ったり過去の治安が悪かったり好きな人と爛れたりとまあおよそ一般的ではない経験の記憶を持っている自負は有るが、それにしたって最近は非日常が多すぎると思う。
誘拐とか先日のやけにリアリティのあるファンタジーな夢だとかならまだ自分に非はないのでまあそういうものだと思えるが、流石にこの歳で迷子ともなると若干凹む。
普段携帯を忘れる事なんて無いのにポケットに見当たらないので迎えはおろか現在地の検索すら怪しい。
いや本当に此処何処。気付いたら○○にいた系の案件が多すぎる。
夢遊病の疑い有りでそろそろ本格的にきぬちゃんに検査とかしてもらった方がいいかもしれない。というか前の入院では怪我以外に検査結果異常無しだったのに原因不明の記憶喪失とかほんと怖い。
まあそれは無事に帰れたらちゃんと相談することにして、気を取り直して周りを見回して見てもまあおおよそ見覚えの無い町並みにしっかりと溜息が零れる。
少なくとも普段の行動範囲からは完全に外れてしまっているようで右も左もついでに上も記憶には無い住宅街を適当に歩きながら、コンビニかスーパーか電柱でもあれば住所の一つや二つは判明するだろう。
問題はどっちへ行くかだけど、どこへ行った所で宛ては無いに代わりないので適当に気が向いた方へ足を向けると「あー!」と幼児特有の甲高い声が聞こえた。
何処から来たのか足にしがみついた見知らぬ子供はなんとなく何処かで見たような親近感を覚える容姿をしていて思わず眩暈がして後ろに一歩よろけたのは許してほしい。
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「かじゅねー、あーちゅちゅきぃ」
「あーそー、よかったねぇ」
「ちなもんとー、あーちゅー」
「アイス好きだねぇ」
「あーちゅ!かじゅもー!あーちゅ!」
「アイス今無いよー」
しゃがんだ俺の足の間で元気にアイスを叫ぶ唐突に現れた見覚えのある子供も、拙過ぎて言ってる事は不明瞭な上に断片的にしか理解出来ないが絶賛迷子らしい。
このぐらいの年齢にはありがちだろう人見知りもせず、興奮気味に色々教えてはくれるがこちらの言うことはあまり理解していないので望む答えが返ってくることも望み薄だ。
本人曰く2歳(見せられた指は5本だったが)らしいので軽く周囲を見ても他の人もいないので、一体何処から来たのか保護者の人もさぞ心配しているだろう。一応保護した立場の俺ではあるが物騒な昨今の情勢を鑑みるに冷静さを欠いた保護者に俺が誘拐犯と言われるのは避けたいところだが、悲しいかな警察に届け出る手段が無い。
という訳で今取れる手段は迷子になったときの鉄則。
入れ違いを避けるための無闇に歩き回るのを避けてその場で待機あるのみである。
2歳児は暢気なもんでご機嫌で俺に好きなものをご教示頂いているが、出来たら本名とか家の場所とかも教えて欲しいなーお兄さん。
「かじゅくんはさー、お父さんとかお母さんいないの?」
「? ないー」
「ないかー、そっかー」
「あ、じゃあパパとかママは?」
「まぁま!」
「お、いる?何処かわかるかな」
「おーち!かじゅとー、みちとー、りゃてとぉ、ねぇねとー、まろかとー、うたたんと、もか!」
一生懸命指を折りながらおそらく家にいる人物の名前を教えて貰ったが、聞き覚えのありすぎる面子の羅列になるほど今回はそういうパターンかぁ、と思わず眉間を押さえた。
「たいたい?」
「ん? ・・・あぁ、痛いかってこと?痛くないよー」
「いーこねー」
「はぁいどーもねー」
ちーさいおててで「よち、よち」と言いながら撫でようとしてくるのを好きにさせながら、さてどうしたもんかね。
ちびっこからはこれ以上情報は聞き出せそうに無いけど一向にこの子の迎えは来そうに無い。
せめて来た方向が判れば、そっちの方に少し移動するのも手だろうか。
「ねぇ、かじゅくん」
「あーーー かじゅきいたーーーー」
ママー!と閑静な住宅街に響き渡る幼女の声に先程治まった眩暈が再発する気配を覚えつつ、恐らく過保護で心配性だろう「ママ」にどう説明するかを考え始めた。
このあと事情を説明しつつ、保護したかじゅくんを引き渡そうとするが泣いて嫌がる2歳に根負けしてご自宅にお邪魔する事になるのはまた別の話だ。
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(いろんな意味で)迷子になりがちなふたり。