セックスしないと出られない部屋【気まずい編】清潔そうなベッドとその横に気持ち程度に置かれたシックなチェスト。
出入り口らしいドアは一つあるが外から鍵が掛かっているのか開かない。
ベッドの上にある大きな額縁にはこの部屋のコンセプトを示す【セックスしないと出られない部屋】というこの上なくわかりやすい説明書き。
そして隣には親の仇とでも言うように据わった目で額縁を見つめている親友の彼女の双子の兄。
部屋の空気は気まずいなんてものではない。そんなものは当に通り越した地獄である。
学年が違うため普段からまともに会話をした事がない相手かつ既に特定の相手がいるにも関わらず性交を強要される理不尽な要求に自分も腹立たしさを感じるのだから、隣の彼も恐らく同じ気持ちだろう。
書いてある文字を食い入るようにじぃ、と見つめているが先ほどから一言も発さないので彼が何を考えているのかいまいち推し量ってやる事は難しい。
とりあえず、心に決めた相手がいる以上部屋の指示に従うのは最後の手段としてなんとか他の方法で脱出出来ないものかとそう広くもないワンルームの壁を撫でながら見えない引っかかりや違和感は無いかと歩いて探ってみるが何も見つけられなかった。
一周してドアの前に戻ってきたので改めてドアノブを握って回してみるが、途中でガチリと止まってしまいやはり鍵がかかっているようだった。
「何か有った?」
「・・・いや、何も」
不意に声を掛けられて若干驚きながら振り返ると、ようやく額縁から目を離して何かを考えるように顎に手をあてながらこちらを見ていた視線を目が合う。
何も無かった、と報告すれば、そう、と小さく相槌を返してまた思案を始めたようだ。
「せんせ、・・・・・・先輩?」
「なんだ?」
「少し試したい事があるんだけど。手ェ借りてもいい?」
「おう」
何か閃いたのだろうか。
返事をしながら差し出した手のひらを見ながら、小さくごめんねと呟いてからするりと自分よりも幾分か小さい手のひらが重ねられ、その上で指を絡めて抱きしめて欲しいと言われた。
正直抵抗はあるが、可能性があるならと空いている腕で僅かに身体を引き寄せ手を握る。
そのまま少し沈黙があって、部屋にはしばし沈黙が流れたために彼が落とした控えめな舌打ちがやけに大きく響いた。
やっぱダメか、と零してするりと離れていった彼に知らず詰めていた息をそっと吐き出す。
柄にもなく、彼を相手にするのは少しばかり緊張する。
「先輩? 次は指で丸を作って欲しいんだけど」
「ああ、こうか?」
彼がして見せたのを真似て、OKサインのように片手の親指と人差し指で円を作る。
そのまま、と言った彼が人差し指を一本俺が作った円に突っ込んできた。
一体何を、と聞く前に室内にピンポーンという軽快な電子音と一緒にガチャリと鍵が開いた音がした。
・・・・・・なんで?
セックスしないと出られない部屋(偽)。
(暗喩も可。)
***********************************
佳月君は高らかに勝利のガッツポーズ。
全く腑に落ちていない先生の背を押して退室を促しながら、概念可のチョロい部屋で助かったと内心安堵する。
流石に脱出のためとはいえみきとラテ以外とやるわけにはいかないし。
最初のハグと指を絡ませるやつでダメだった時は困ったが、結構直接的なジェスチャーでOKだったのは僥倖だった。
最近不意に変な部屋で目を覚ます事が有るが、毎度これぐらいぬるい部屋だと本当に助かるのだけど。
そう思いながら先生と一緒に部屋を出ると、迎えに来てくれたのかみきがいた。
俺の顔を見るなり弾かれたように抱き締められてちょっと苦しい。
隣を見れば先生も、みきと一緒にいた男になにやら心配されているようだった。
また知らない間に数日経過していて心配をかけたなら悪かったなと思う。
「・・・・・・佳月」
「うん?」
「可愛そうニ、辛かったでショウ?」
「・・・・・・うん?」
なんだかものすごい心配をされているなぁと思ったが、たった今出てきたドアの上にかかっている額縁のせいで馘と、ついでに先生に詰め寄っている人にまで物凄い誤解をされていると気づくまで少々の時間を要したし、その誤解を解く方が部屋に閉じ込められていた時間より長かったのは全く笑えなかった。
この部屋作った奴の性格が悪すぎる。
セックスしなくても出られる部屋(真)。
(部屋から出るとセックスしたと思われる部屋)
*****************************
出来心で。