ご自宅では阿鼻叫喚『天宮かづき・・・・・・面倒なので男女両方ー、御家族の方が玄関にみえられているからはやくきてくれーーー』
授業中にも関わらずなんとも適当でやる気のない校内放送で呼び出され、きぬちゃんだったら朝何も言ってなかったしわざわざ来る前に連絡のひとつもありそうなもんだけどと珍しさを覚えながら同じく首を傾げている花月と一緒に来客用の玄関を覗くと。
「あー!」
「・・・かじゅくん?」
教職員に囲まれた、先日見知った2歳の子供がひとり。
とことこと歩いてきていつかと同じように足にしがみつく。持ち物は耳を大事に握り締められたうさぎのぬいぐるみひとつ。
一人と一匹でいったいどうやってこんなとこまで、と考えている間にぺちぺちと足を叩かれ抱っこしろと催促してくる。
「かじゅ、きたよー」
「来ちゃったの?一人で?」
「ん!」
「そっかぁ・・・・・・」
これ絶対向こう大騒ぎしてるよね。連絡先交換しといて良かった。あの時の俺めちゃくちゃ偉い。
「佳月、知ってる子なの?」
隣で見ていた花月が不思議そうに声をかけてくる。
周りの教職員は「やっぱり天宮の身内でしたねー」「よく似てて助かった」とかなんとか言いながら解散を始めている。
他人の空似なので身内ではないんですけどね。そもそも弟はいないし。
まあ事情知らなかったらそう思うよな。
「あー、うん。この前遠出した時に会ったんだけど・・・」
「ふふ、可愛いね。ちっちゃい頃の佳月にそっくり」
「ねぇね!」
「私?」
覗き込んだ花月の方へ腕を伸ばすかじゅくんを預けると嬉しそうにお喋りを始めた。
まあ向こうのお姉ちゃんとは顔どころか歳も一緒だろうしかじゅくんが一応初対面で懐いてるのは大変有難い。
「ちょっと保護者の人に連絡するからかじゅくん見てて」
「うん」
***
タイミングが良いのか悪いのか丁度かじゅくんがいなくなったと大騒ぎしていた最中だったようで危うく立て込んでるからと電話を切られそうになった。
まあそこを押し切ってなんとか「かじゅくんが一人でうちの学校に来てる」って伝えたら流石に向こうも驚いていたし、理由を聞かれても俺にもわからないけど。
本人曰く一人で来たって言ってたし。
それでも学校の住所を伝えればすぐに迎えに行くとのことだったが片道の距離から考えて数時間はかかるだろう。
電話している間に授業も終わって、忠犬のようなまどかが花月を迎えに来た。律儀なもんだ。
「迎えに来ましたヨ花月、Lunchにしましょウ!」
「あ、まどか」
「オヤ、」
かじゅくんとまどかがしばし見つめあう。
「・・・・・・お兄様にそっくりですネ」
「まろか、おっちぃーね?」
「・・・・・・悪くはないですネ」
「かじゅくんおいで!俺とお昼ご飯食べよう!」
「あーちゅ?」
まどかから何やら不穏そうな気配がするので慌てて花月からかじゅくんを取り上げる。
花月は残念そうだったが構ってられるか。
よその子の安全が脅かされても困るのでこういうのはさっさと離れるに限る。
「かじゅくん、バイバイ」
「ばーばぃー」
さよなら出来てえらいねかじゅくん。いいこだぞ。
「かじゅくん、ジュース飲む?」
「いーごにうにう!」
よしよし、お兄さんが買ってあげるからねぇねとまろかとアイスの事は忘れてね。
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2歳のわくわく学校参観。