不器用な甘々/ひぜさにーーひょっとしたら俺も物好きかもしれねえ。
そんな考えが過ぎっちまったのは、最近の俺がどうにも調子が来るってばかりだからだ。
いつも通り言われたものは切る、いつも通りに飯はうまい。なのに。
「お疲れ様肥前くん。今日もかっこいいね」
「…………………。」
心底訳が分からねえと睨んでんのに、この女は怯むどころかそんなところも素敵かも、とニコニコする始末だ。
物好き超えて頭の中身が湧いてるんじゃねえかと思う。
「今日は肥前君が好きなハンバーグ作ったよ。燭台切さんに手伝ってもらっちゃったけど」
「………」
別にわざわざ言う必要の無いことをわざわざ言ってくるし、俺がどんなに近寄るなと言っても、
「じゃあ遠くから見てるね!遠くからでも見させて!お願い!」
という始末なので全く手に負えない。
ーーその癖タチの悪いのは俺以外にはそういうことをしねえってことである。
「兼さん、野菜も食べないと堀川くんに怒られちゃうよ」
「…じゃああんたが食べさせてくれたらな」
「何言ってるの…。」
とりわけ和泉守兼定は古参らしくよく言い争ってるのを聞く。
ーーつーかこいつわざとやってんだよなぁ。
和泉守は好き嫌いなどしない。現に審神者が去った後ぱくぱくと綺麗に食っている。
「……何だ肥前、オレのかっこよさに見とれちまったのか?」
「……だったらそのおかしな行動やめたらどうだ」
「バレたか。…オレもそろそろやめてぇんだけどなぁ」
ニヤニヤされんのが、なんとなく気に入らねえ。
「あんたがあいつの何を知ってんだよ」
「…じゃあ新参のお前は何を知ってんだ?」
ーー血が昇った。
からん、と空の茶碗が畳に転がる。
「……肥前」
「んだよ」
「手、下げろ。ご法度だ。…他のやつが来たらコトだぜ」
舌打ちして胸ぐらを掴んだ手を下げる。煽られてその通りにするとか馬鹿か俺は。
「……そっか。ならいいよ」
「あ?」
和泉守は乱れた襟を整えると、静かに食卓を片し始めた。
「言いてえことがあんなら、口に出して言うんだな。…主にゃ回りくどいことは通用しねえぞ?ま、わかってるとは思うが」
「てめっ…」
「悪かったよ、…一応古参なもんでな。国広には黙っといてくれや」
そう言い残して飄々と出ていくところが、やはり、気に入らない。
ーー何に対して?
多分、どちらもだ。主が、あいつに甘えてんのも、多分俺は気に入らねえんだろう。
「………あークソっ」
らしくねえ、らしくねえ、らしくねえ!何だってこんなもんに俺が振り回されなきゃならねぇんだ。
ーーだからやることは一つだった。
「なあ」
「ひゃい」
あの野郎の言うことを聞くのは癇に障ったが、そうも言ってられねえので行動に移した。俺よりも小せぇ身体は本丸の中なら簡単に捕まえられるから便利だ。
面倒なのが何よりもゴメンだ、と俺は切り出した。
「あんた、ほんとに俺が好きなのか」
「えっ」
「どーなんだ!」
「はひゃ、す、すきです!大好きです!最推しです!」
「……ふーん」
「あの、ひぜ、っ!?」
ーーむしゃくしゃした。
そこはもっと、ちげー言葉があるだろ、と、勝手に期待して、勝手に裏切られただけなのに。
ーーやっぱ物好きは俺の方だ。
それでもこいつを食い尽くしたいと思う。それでも、この女が欲しいと想う。
小さい口の中をこじ開けて、散々に貪る。
「ん、んーっ…んーっ…」
じたばた跳ねる身体から、力が抜けた頃に解放する。
「………あんた、こうして見ると色気あんじゃねぇか」
はあ、はあ、と上がった息で俺を見上げた瞳は濡れていた。
「……なんで、こんなっ、はぁ、こと…?」
「…………。」
説明すんのがやっぱり面倒で、そのまま主を懐に入れる。暖かくて柔らかくて、このまま食い散らかしたくなる。
「……ぶぜ、」
「好きだ。……文句あんのか」
あっても聞く気は無い。それに。
「………甘えんなら、俺にしろ」
腕ん中の生き物は、ややあってぐずぐず泣きながら、うん、と頷いた。
「このまま抱いていいか」
「っそれは!!!だめ!!!」
秒で断られた。
「ぁぁ…?今了承する流れだったろ…?」
「だめ!!まだだめ!!これ以上はむり!!」
あまりに必死に拒むので、さすがに俺も譲歩した。
「……じゃ、おかわり」
「は?おか…んんんーーーっ!?」
ーー和泉守の言った通りになったのが若干気に食わねえが。
欲しいもんは手に入ったので、良しとする。
「……オレが言うのもなんだけどよ、あいつら傍から見ててどう見ても出来てんのにお互いに全く気づかねぇんだもんよ、よーやくお役御免だぜ」
「すまんの和泉守、儂が言うてもおえんがよ」
「いーよ。」
幸せになれよ、と不器用なふたりの行く末を願った。