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    かなめ先生

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    かなめ先生

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    「サマチャンがスタンプ誤爆する話」(理左)
    ※銃兎もちょっとだけ出ます

    「サマチャンがスタンプ誤爆する話」(理左) んじゃ、来週の件よろしく頼むわ。
     それだけ打ち込んで、送信ボタンをタップする。
     宛先は理鶯。急ぎの用なら間違いなく電話を掛けるのだが、今回は確認だけなのでメッセージアプリで充分だ。
     まあ、手が空いているときにでも見てくれれば……。そんなことを考えている間に、スマホから通知音が鳴った。
    『りょうかいだ』
    「……」
     理鶯から送られてきたのはデフォルメされたカラスが両手を広げて「了解」を示している可愛らしい絵文字スタンプ。
     ……意外だ。
     理鶯ってこーゆースタンプとか使うんだな、と追加でメッセージを送ると、それもすぐに既読になる。どうやらちょうど理鶯も作業の手を止めて一息ついているタイミングだったらしい。
    『先日、知人からこういうツールがあると教えてもらったところでね。折角なので使用してみた』
     ふぅん、なるほど?
     知人、とは言うが、おおかた理鶯の交友関係からしてこんな入れ知恵をしてくるのはシブヤのギャンブラーか――――いや、アイツは常に素寒貧だからスタンプなんかに課金はしないか――――、となると、山田家の三男あたりなのだろう。
     こんなかわいい理鶯が見られるなら俺様ももっと早くにスタンプとか送っとけばよかった、などと思いつつ、「そうなのか」などと適当に返信する。
     ……確かに、自分自身スタンプを誰かに送るようなたちではないし、これは盲点だったかもしれない。
     詳細が見たくてそのカラスのスタンプをタップしてみると、それが売っているストアのページへと飛んだ。
     ……〝愉快な動物スタンプ・ヨコハマの森編〟……?
     へえ、こんなモンがあんのか。
     ラインナップを眺めてみれば、先ほどのカラスに始まりエミュー、サメ、はたまた虎まで。確かにこの物騒な動物のチョイスはヨコハマの森に他ならないなと勝手に納得してしまった。
     これを理鶯が使っているのか……と思うと心底可愛くて、出来心で俺もそのスタンプを購入した。
     生き物自体はなかなかのゲテモノ揃いだが、スタンプの文言自体はかなり使い易そうだ。
    「……」
     ふと、その中の一つの絵柄が目に止まる。
     愛嬌があるが、少し困っているようにも見える何とも言えない表情のタランチュラのスタンプだ。(もちろんデフォルメされている。まっくろくろすけに足が生えたみたいな見た目だ)
     話の文脈的には唐突だろうか、とも思える言葉だが、これならいっそ遊び半分だと捉えられるかもしれない。
     ……いや、いっそ、それでも……。
     そんなことを考えていると、不意に通知音が鳴り、思わずスマホを取り落としそうになる。
     理鶯か?
     そんな期待をしながらもう一度メッセージアプリを見るが、理鶯との会話画面は先ほどの文面を最後に止まったままだ。
    「あァ……?」
     よくよく見れば、理鶯とのトークとは別に、一件未読メッセージの通知バッジが届いている。
     送り主は……。
    「……チッ、んだよ、クソウサポリ公か……」
     トーク画面を開けば、これまた急ぎではない仕事の確認事項が銃兎から送られてきていた。
     クソッ、このタイミングで紛らわしいっつーンだよ……。
     なんとなく興が冷め、そのメッセージを既読無視して画面を閉じる。
     まあ、アイツには後でテキトーに返信すりゃいいだろ。
     そのまま俺は事務所のソファーにごろりと横になる。
    「……」
     この話は此処で終わり。……そう思っていたのに。
     俺は再びガバリと起き上がり、スマホを手に取る。
    『理鶯』
    「……」
     勢いのまま、スタンプボタンを押す。
     
    『会いたい』

     少し困り顔のタランチュラが、じっと此方を見ていた。
     ……あー……、送っちまった……。
     ……理鶯は、こんなおちゃらけたスタンプにどんな返信を返してくれるのだろうか。
     ……ピロリンッ。
    「!」
     そうこうしているうちに、返信が届いてしまった。
     俺は恐る恐る薄目でメッセージを見るが、其処にはたった一言。
    『送る相手を間違えていますよ』
    「……は?」
     何だか理鶯にしては文章が変だ。
     ……敬語?
     俺は不本意ながら、言われた通りにトーク画面を確認する。
     送り先は……。
    「……ぁ!?」
     なんと、俺がさっき理鶯に送ったと思っていた渾身のスタンプは、どうやら手違いで銃兎に送ってしまっていたらしい。
     うわあああああ……! クソッ、いっそ殺せ……!!!!!!
     穴があったら入りたい、とはこのこと。
     俺は銃兎からのメッセージに、「忘れろ」とだけ返信する。
     ピロリンッ。
     すると間髪入れずにまた通知音が鳴った。
     ……銃兎のヤツ、どんだけ暇なんだよ……。
    「……ん?」
     よくよく見れば、銃兎とのトーク画面に新規メッセージは届いていない。
     ……つまり?
    「!」
     俺は慌ててトーク画面を閉じる。
     ……銃兎からじゃない。
     今度こそ理鶯からの返信だ。

    『会いたい』

     その困り顔のタランチュラのスタンプを見て、気付けば俺は反射的に理鶯に電話を掛けてしまっていた。
     ……なんだよ。同じタイミングで、まさか同じスタンプを理鶯も送ってくるなんて。
     ……てことは、理鶯も、俺様と……。

     数コール鳴らすと、電話はすぐに理鶯へと繋がる。
    『……左馬刻?』
     その声は心なしか少し不安げで。
    「……理鶯、会いたい」
     先ほど送り損ねた言葉を、改めて自分の口で理鶯へと伝える。
     すると、すぐに何処か安堵したような笑い声が電話口から聞こえてきた。
    『貴殿も同じことを思ってくれていて、嬉しい』
     不意に、さっきのスタンプ一覧にあった「うれしい」というクマのスタンプの顔が脳裏に浮かぶ。
     ……そうだ。誰かに似てると思っていたが、あのクマの顔、はにかんで笑ったときの理鶯に少し似てるんだ。
     そんなことに気付き、途端に可笑しくなってしまう。
     理鶯がクマに似てるのか、クマが理鶯に似てるのか……。
     うん、と理鶯に小さく相槌を打てば、心なしか声を弾ませて「これから其方へ行ってもいいか?」と続く。
     ……あー、このクマちゃん、マジで可愛すぎんだろ。
     それに結局、俺から言おうとしてたことも全部、理鶯のやつに先に言われてしまってもう言うことが無い。
     満ち足りた気持ちでまた俺がうん、と頷くと、不意に耳元でチュ、とリップ音がはじけ、思わずびくりと反射で肩を震わせてしまった。
    「ってめ、急にそーゆーことすんの……!」
    『ふふ、すまない。驚かせてしまったか』
     左馬刻、と今度は確実に意図的な掠れ声で囁かれ、まんまと鼓膜をぞわぞわさせられる。
     遊んでないで早く来い、と強めに返せば、理鶯は全く意に介さない様子で「了解だ」と笑った。
     脳裏に、あのカラスが両手を広げて笑っているスタンプが思い浮かぶ。
     ……ふふ、なんだよ、それ。
     やっぱこのスタンプと理鶯の親和性、謎に高いよな。
     通話が終わり、俺は「YES」とハートマークの書かれた躍動感あるポーズの虎のスタンプを一個だけ送信する。
     見る奴によってはどうとでも解釈の出来そうなこのスタンプ。理鶯にはどう受け取られるだろうか。
     そんなことも少し楽しみにしつつ、俺はトーク画面を閉じ――――。

     ピロリンッ。

     嫌な予感がして通知を見ると、銃兎から「りょうかいだ」のカラスのスタンプ。
     ……コイツ、わざとおちょくってやがんな……!?
     それに対して俺は般若の形相をしたサーベルタイガーの怒りスタンプを送信し、そのままスマホを放り投げた。
     あ〜〜〜〜〜理鶯〜〜〜〜〜〜早く此処に来て荒んだ俺様を抱きしめてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!
     
     後日、MAD TRIGGER CREW内でこのスタンプが流行ることになるのは、言うまでも無いだろう。
     


    end
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