おひさま君はいつも突然だ。
例えば、天気雨の中に降り注ぐおひさまのような。
ザフトからの攻撃を振り切ってどうにか地球に降り立ったあと、僕達を乗せたAAは船のごとく海の上を走っていた。
地球に来たのが初めてな僕は、皆が艦内にいることを確認したあと、よくひとりで艦板に赴いていた。
無意識にだが、誰かといることで自分を追い詰めているような気がして、せめてこの癒やしの時間は守ろうとした結果だった。
ひとりでいることは楽だ。気を遣う必要がないから。
けれど、ひとりでいることはとても辛い。だって、自分と向き合うしかないから。
アスランー。僕と兄弟のように育った彼とは、もう道は完全に分かたれてしまったのだろうか。
お互いの気持ちをぶつけるばかりで、聞く余裕も現状を変える術も持たない僕達は、あの日の別れを境に会わないままの方が良かったのだろうか。
今でも大切な親友として大好きな気持ちを、楽しかった思い出と共にしまい込んでしまうべきなのだろうか。
そう何度も思ったけれど、絶対に諦められない自分がどうにか彼と僕を繋ぎ止めてくれている気がした。
一緒にいた頃よりは幾分か減ったけれど、やっぱり僕は耐えられなくて、心からこぼれてしまう気持ちを涙に託すしかなかった。
もう優しく抱いて慰めてくれる彼は、自らの足でたどり着けるところにはいない。
そのことが余計に心を溢れさせた。
考えたって仕方のないことかもしれないけれど、いっぱいいっぱいな僕には他のことを胸に閉まっておける余裕なんてない。
だからこうして吐き出すしかないんだ。
だけど、そんな余裕のない心にまで届くような日射しが僕を照らしてくれた。
ひとりで潮風に当たっているとき、君はよく僕のところに来てくれた。
君の明るさが、余計な気持ちを蒸発させてくれた。
ちょっと荒いけど優しく抱きしめてくれる君の暖かさが、涙で冷えた僕を温めてほぐしてくれた。
もう泣くな。と言葉は女の子なのに少し荒いけれど、とんとんと落ち着くリズムを送ってくれる君の優しさに僕はどれだけ救われただろう。
君はちょっと変わってるよね。女の子なのに男勝りで、ナチュラルだけどコーディネイターの僕に物怖じも嫌な顔もしない。こんな血で汚れた僕を優しく抱きしめてくれる。
無邪気でとことん真っすぐでおひさまみたいに明るい。
君といるととても安心できたし、君の前でなら隠すことなく僕のままでいられた。
だからかな。そんな君の真っ直ぐな優しさに惹かれたのは。
こんな日々を過ごすうちに、僕達の足下を緩やかに流れていく波のように、僕の心にも緩やかで暖かな気持ちが満たされていった。
僕が泣き止んだのが分かると、カガリはそっと離れて壁沿いに腰を下ろし、隣を軽く叩いて僕を招いてくれた。
いつもなんとなくちょっと距離を置いて座るけど、今日の君は距離を詰めてくっついてきた。
君の暖かさをおすそ分けしてくれてるみたいだ。
暖かさを心地よく思う反面、落ち着かないことがバレてしまわないかとても心配だった。
一時的だったとしても、せっかく見つけた僕の数少ない居場所を失いたくはない。
けれど、触れた肩先から浸透していくように広がる熱に、どうか僕の気持ちまで流れていきませんようにと祈りながら、穏やかな時間に目をつむって身を委ねていた。
そんな今にも蒸発していきそうなキラの気持ちを知ってか知らずか、加速しながらもシンクロしている鼓動に頬が綻ぶのを隠すように、2人の気持ちを暴いてしまいそうなほど眩しい陽にカガリは目を細めた。
「いい天気だな。」
ふと、カガリのひとことに必死に自然な風を装って空を見上げる。
「そうだね。本物の空ってこんなにも綺麗なんだね」
「そっか。キラは最近初めて地球に来たんだっけ?」
「うん。僕は月で育って、途中でヘリオポリスに引っ越しちゃったから。月もヘリオポリスも、地球の太陽や天気を再現してたらしいんだけど、本物の日射しってすごく眩しいんだね」
まるでカガリみたいだ。なんて言葉は照れくさくて言えなかった。そんなことを言ってしまったら、今まで隠してきたのが無駄になってしまう。
明るい君ともう明るくはなれない僕。
皆を照らす君と、影にいるしかない僕。
君と僕は太陽と月みたいだ。
決してこの気持ちが交わることはないのだろう。
だけど、その暖かさをもう少しだけ。