そんな喧嘩はパピーも食わない。3ジェイミーは柵の外を眺めながら椅子に座り、隣にルークが来るのを静かに待った。
方やルークは、まさか穏やかに話し合いの場が設けられると思わずキョトンとしていたが、理解し椅子へと歩を進めた。
そして大柄なルークからは思いつかないほど、そっと静かに腰かけた。
普段の豪快なファイトスタイルは身を潜め、真剣に話を聴こうという姿勢が見て取れたようだ。
その姿に、ジェイミーはふと笑みを浮かべる。
二人が肩を並べる中どちらからも声を発することなく、ただ風が通りぬける。
しばしの沈黙ののち、先に声を発したのはルークであった。
「今日、トレーニングセンターに来ただろ。デモンストレーションに誘っても乗ってこない、かといって何かをするでもなくただ眺めていて、ホント何しに来たんだよって思ってた。」
柵外に目を向けたままそう呟き、そのまま言葉を続ける。
「俺は、お前が思慮深い奴だって…考えなく行動する奴じゃあないって思ってるから、理由が知りたかった。帰り際のアレだって、きっと何か意味があるんだろう?って。でも、考えても出てこなかったんだ。」
そしてルークは顔を上げ、視線をジェイミーに向け言葉を続ける。
「だから教えてほしい。内容によってはちょっと時間かかるかもしれないけど、理解できるよう考えるから。頼む。」
その眼差しは、真剣そのものであった。
ジェイミーは驚いていた。
普段脳まで筋肉なんじゃないかと思うほどにパワフルな発想の男が、こんなにも真剣に"自分の言葉の真意"を理解しようと努力するとは考えていなかったからだ。
どうせ最後はファイトでかたをつけて付けて終わりになるんだろうと考えていたため、わからないなら最後まで聴こうという姿勢に面食らった。
その心意気を理解したジェイミーは、観念してぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。
「町で良くない噂を耳にしたんだよ。お前に関する…な。」
言葉を発しながらも、同時に脳内で最適な言葉を選ぼうと思案する。
ただし、心のうちに秘めた思いすべてには気づかれないように。
「その噂が、ちょーっと見過ごせない内容だったから、このジェイミー様が見回ってあげたってワケ。感謝しろよな。まあ?何も起こらなかったわけだし、俺から言いたいのは教官サマはもっと周りをよく見てよく考えるのがオススメだってことだ。」
全ては語らずとも、きっとルークであれば"なんだそんな事か"となるか、そのままファイトにもつれ込むであろうと考える言葉を選んだ。
ジェイミーがさも明るく答える反面、聞き手に回っていたルークは想像していた以上に真剣な面持ちで考え込んでいる。
再び風が通りぬけ、ひとときの後、ルークが口を開く。
「つまりジェイミーは俺を心配して、俺のためにいつもより早く起きて見回りをしてくれたって事か?」
真剣な眼差しはそのままに、ジェイミーを見つめさらに続ける。
「だとすれば素直にうれしいよ。ほら、ジェイミーって多くは語らないけど周りのことによく気付くだろ?その対象の中に俺がちゃんと含まれてるんだと思うと嬉しい。そのうえで、特別な扱いをしてくれるだろ。俺、愛されてるんだなあ"って実感する。
好きだって考えてるのが俺だけじゃないんだ、きちんと思いあえてるんだって。」
ルークのまっすぐな言葉に、ジェイミーは気持ちの整理が追い付かなかった。
自分でも気が付いていなかった。
"嫉妬"だけだと感じていた気持ちの奥底にはきちんと"愛情"が根付いていたことに。
自分でも気が付いていなかった感情をまさか言い当てられるとは思わなかったから。
一気にカッと顔が熱くなる。
「はあっ?え、いや。別にそこまで言って…」
そう言いかけた言葉は、ルークに抱きしめられたことで止まってしまう。
「本当にうれしいよ。ジェイミーはメッセージが苦手だろ?読んではくれるけど返事はあんまりないし。今日だってメシに誘おうか考えて、メッセージよりも電話のほうが出てくれるだろうかとか…それとも日を改めて誘うほうがいいのかとか、考えてた。あ、ゲームの話聞こえてたか?あれは最初から断るつもりだったよ。正直気になるけどそこは生徒の家まで行くのが良くないってのはわかってる。」
抱きしめたまま、ルークは続ける。
「ゲームよりも何よりも、俺はジェイミーのことが一番気がかりなんだ。理解できなくて困らせちまうこともあると思うけど、わかるまで付き合ってほしい。だから、これからも大事にさせてほしい。だめかな?」
"あぁ、こいつはまっすぐなんだ。そして優しく照らす太陽だ。決してまぶしすぎるだけの太陽じゃない。"
ジェイミーは心の中で強くそう思い、きちんと気持ちにこたえなければと思い、素直な言葉を返す。
「俺もお前が大切なんだ。守ってやらなきゃいけないくらい弱いとは思ってねぇけど、どうしてもトラブルバスターだからな、解決してやりたいなって気持ちで動いちまう。言葉が足りなかったし、最初から噂を伝えとけばよかったな。」
ジェイミーは宙に浮いたままであった腕をルークの背に回し応える。
「俺も、お前のことが好きだよ」
その言葉は風に乗り、街の中へと溶け込んでいった。