少し席を離れた隙になんとも艶っぽい美女に話しかけられているチルチャックを見て、ライオスはなんてお似合いなんだろうとぼんやりと思った。さっきまで五月蝿いほどだった酒場の喧騒すら遠い。
未だに信じられないが、チルチャックとそう言う関係になって長いとは言えないが短くもない。それなりに回数を重ね、最近はチルチャックの部屋にもすっかりライオスの私物が増え、まるで世間で聞く恋人同士のようだと思っていた。
───さっきまでは。
トールマンの匂い立つ美女と、落ち着いた大人の男であるチルチャックの姿を見てぴしゃりと冷や水をかけられた気分だった。
出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる優美な曲線を持つ女と自分のちんちくりんな姿を見比べてのどに石が詰まったかのようだ。
お似合いってああ言う事を言うんだな…。
ぐらぐらと地面が揺れしっかりと立てない。
ぎゅうと目を瞑り、思わずその場にしゃがみ込む。
「おい、ライオス。酔ったのか?」
「チルチャック…」
心配げな声が頭上から聞こえ、のそりと顔を上げると女と話が終わったのかチルチャックがすぐそばに立っていた。
好きだな、───好きだ。ライオスは改めて、いやその時はっきりと自覚したかもしれない。それまでは頼れる大人の男であるチルチャックに求められて嬉しさから受け入れていた所が大きかった。でもこのとき初めてこの人を、この男を手放したくないと思った。人付き合いが苦手で一人でいる方が気楽だと思っていたライオスにとってそれは初めての感情だった。
しゃがみ込んだままのライオスの肩に手を入れて、チルチャックが抱え上げる。
「酔ってない!自分で立てるよ、チル!」
「いいから抱かれとけ。どうせ部屋まですぐそこだから」
チルチャックの言う通り、酒場とチルチャックが寝泊まりする部屋はすぐの距離だったが
さっきの美女を見た後で子供のように抱き運ばれるのはなんとも居た堪れない。
無理やり降りようとしてもトールマンのチルチャックとハーフフットのライオスでは端から勝負にならず抵抗虚しくチルチャックの部屋まで運ばれてしまう。