影法師あ、まただ。
高校進学で東京に来たらアズサも同じ高校だった。一年間はどの学科も混ぜこぜで偶然にも同じクラスになった。
アイツとは今は目が合えば挨拶くらいはするが、流石に高校にもなると女子と男子は別々にたむろするようになるようで、ガキん時みたいに頻繁に喋る事はなくなった。(入学早々は気軽に話してたら他の女子に「元カレ」って詰め寄られて、アズサが普通に否定したのに何故か「隠さなくてもいいのに」ってよくわかんねぇ返しをされてアイツ苛ついてたから、あんま話掛けんのやめたんだよなぁ。)
でも、ちょっとマズいかも。また首の後擦ってる。アイツ嫌なこととかストレス我慢するとあの癖出んだよんな、本人気付いてないみてぇだけど。昔はあんな癖なかったのにな。
昼休みに入って、たまに一緒にいる女子の一人がダチ何人も集めて「私、冬休みこんな凄い人と知り合いになった。つまりそんな私も凄い!」みたいな話を何回も繰返し話している。アイツも回りもドン引きしてる状態。多分「その人は凄いけどお前は別に凄くねぇよ」って思ってそうだな。お、予鈴が鳴った。自慢女子はギリギリまで話したそうしてるけど、別のあからさまにウンザリしていた女子が『予鈴だ席に着こう』って声掛けしてここぞとばかり皆離れてく。自慢女子すっげぇあの子睨んでっけど大丈夫か?
帰り道、アズサが一人になったところで後から声を掛けてみたらオレが話掛けるのが分かってたのか驚かれなかった。
「よ、アズサ。昼休みはよく耐えたよな、昔だったら『別にアンタ凄くなくない?』って感じで返してただろ?」
「……子どもだったら、ね。正論だろうと論破するとああいう奴が一番後が厄介になるから笑ってハイハイ言っとくのが後々自分の為になるの」
あぁ、あの睨まれた女子みたいな事か。
「なんつぅか、めんどくせぇな」
「なんていうか、そうね」
それからはどちらも話すことなく前を見て歩く。
無言でオレの数歩先を歩くアズサの影法師とアズサの数歩後を歩くオレの影法師の頭の高さが揃っていた。
「アズサ、オレと付き合わね?」
…………
「「え!?」」
ふたりの歩みが止まり同時に声が出た
「いや、言った本人が何で驚いてんのよ?」
「や……わかんね、勝手に口から出てた」
「口から勝手に、って。……本気?」
「んん、あ-……おぅ、そう、だな、うん」
「「…………」」
気まずっ!気まずいがとりあえず歩くか、前には進もう、そうしよう。
アズサはすぐには動かずオレが少し追い越したら後から付いてくる形で歩きはじめた。
「……私が弱そうに見えた?守んなきゃとでも思った?」
「いや思わねえ」
そんなわけがない。オレが見ていたコイツは昔も今もオレの知ってる人間でかーちゃんの次に強いと思ってる(色んな意味で)
「じゃあ……」
オレの背中に向かってアズサが小さな声で返事をくれた。
指先ですらあつい。