「えぇっ!?ヒカリさんて王さまなんですか!?」
くりくりと大きな目をさらに大きく見開いて驚く、かつての仲間の子。
なるほど、顔立ちはテメノスの方に似ているが、このように素直に感情を表すところはクリック殿の方に似たようだ。
「すまないな……。隠すつもりは無かったのだが」
てっきりテメノスかクリック殿が話しているのかと思っていた。恐らくこの子供が萎縮して今までのように俺に接することが出来なくなると思い、敢えて言わなかったのだろうか。
「ぼく知ってます。王さまは国でいちばんえらい人なんですよね?」
「……いや、確かに俺は王ではあるが…俺は自分が偉いとは思わない」
「……?でもいろんな本にそう書いてあるし、ぼくのまわりの大人の人たちはみんなそう言ってます」
ちがうんですか?と首を傾げて俺を見上げるクリス。
「そうだな……、ではクリスに訊こう。もしこの世からパン屋が無くなったら、どうなると思う?」
「えっと…パンが買えなくなって、みんなおなかを空かせてしまいます」
「そうだな。では、病院や診療所が無くなったら?」
「ケガやびょうきを治すことができなくなって、みんなイタイいたーい!ってくるしい思いをします」
「そうだ。だが、パン屋でパンを作るにしても小麦がいる。その小麦を作るには農家の者達の力がいる。そして小麦を挽く粉挽きもいなくてはならない。病院だって医者だけじゃない。看護師や薬師、院内を清潔にする清掃者がいて初めて患者を治すことが出来る。他にも教会…武器屋…道具屋……、それ以外にも色々な場所で働いている者達がいる。彼等がいてこそ、国はまわる。だから真に偉いのは俺ではなく、彼等のような民達だ」
「えっと……国民の人たちはえらいんですか?王さまのヒカリさんよりも?」
「あぁ。そうだな」
スッと屈んで目線をクリスに合わせる。
「クリス、覚えておいてほしい。民無くして国は成り立たない。真に国を作るのは、その国で生きる民達だ。俺はそんな彼らが幸せに暮らせるように手助けしているだけに過ぎない」
……と言ったところでまだ幼いクリスにはわからないかもしれない。現にクリスはキョトンとしている。
「ヒカリさんは、みんながしあわせになれるようにおしごとしてるんですか?」
「ん?あ、あぁ…そうだが」
「じゃあ……ヒカリさんをしあわせにしてくれるのはだれですか?」
「は?」
予想だにしなかった幼子からの質問に、言葉が出てこなかった。自分自身の幸せなど今まで考えたこともなかったから。
二の句が継げずにいると、突然クリスが「あ!」と声を上げた。
「じゃあ、ぼくがもう少し大人になったら、ヒカリさんがしあわせになれるようにおてつだいします!」
「………」
無邪気にニコニコ笑う子供を前に呆気にとられた後。
「くっ…ふふっ…、そう、だな……。では、クリスがもう少し大きくなったら、俺の懐刀になってもらおうか」
思わず久方ぶりに声を出して笑ってしまった。
あとでテメノスとクリック殿に教えてやるか。
お前たちの息子は人たらしの才があるぞ、と。