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    物語シリーズで創作したいと思いが挫けて未完になった話(2015年頃)。部分部分は気に入っていたので添削目的で晒します。

    ##物語シリーズ

    雨の話(貝ひた)天気予報によれば局地的な豪雨だと言う。
    外からは遠くで雷雨が鳴っているのが聞こえる。合宿日は悪天候と重なってもみんなは足を止めることなく声を揃えて駆けていたっけと昔の記憶がふと蘇る。
    懐かしいというエモーショナルな感情はそこにはない。今の自分の体たらくと重ねた時、無性に爽やかを演じてた自分に対して雷が落ちればいいのに等と考えてしまった。
    プツッと電話が繋がる音によって私は現在に戻される。
    応対してくれたのは通院先の看護師だ。私は簡潔に無感情に「雨で足を滑らせてケガをする可能性があるので本日の検診をキャンセルしたいのですがー」と言った。
    電話口で外へ出れない理由を話せば代わってくれた担当医は納得し「どうぞ身体を冷やさないようにね」と締めの挨拶を交わし何の躊躇もなく通話は閉じられた。
    「軽過ぎても困りものね」
    また独り言を、今度は誰もいない受話器に向かってぽつりと呟く姿は惨めに思えた。

    雨が降れば傘を差す。とても当たり前の行為さえ私には重荷なのだ、文字通りの。
    165センチの私の全体を支える体重はある日を境に5kgとなってしまった。一匹の蟹に出会ってから。
    そうなってから鞄を持つこと、服を見に纏うこと、椅子を引いて座る事。生活の些細なあれこれが全て一苦労で気軽に出来ない。
    骨組みが金属部分の傘を持つなんて到底不可能な無力な存在と成り下がった現在に、もどかしさで心はずっとささくれ立ってるようだ。
    私はその気持ちから逃れたくて、さっきより握ったままの受話器を電話機に戻さず、病院とは違う電話番号のボタンを押す。苛立ちから押す力が強くなってしまうが構うものですか。どうせ元々の予定では私の診察が済んだら報告を兼ねて会う約束をしていた。だから、多少時間を早めてこちらに来いとせっついた所であいつは露骨に怒るなんてしないだろうと、謎の確信を持っていた。

    3コール待つ間も、悩みの種である雨は止むこと無く、むしろ風雨を増してリビングの窓を強く打ちつける。
    まるで家中を釘でたれているような音に「もう外へは出て行けない」と言われてる錯覚がする。けれど、錯覚ですもの。気にしないわ。

    「確かに不便だろうが、それは賢明な判断だろう戦場ヶ原さん。俺は深く感心した。しかし難儀だったな。お父様が不在の中、さぞかし外の大荒れ模様に怯えただろう」
    外の様子を電話先の彼に説明したら、声こそ平坦ながらも私の身を案じてくれた。
    「決して怖くなって貴方に電話をかけたわけじゃないわ。子ども扱いはよして下さい貝木さん。唯、雨が止むまで少し戯言に付き合って頂戴よ。どうせ午後まで仕事はないのでしょう?」
    「働く大人に暇な平日なんかあるわけないだろう」
    「子どもに何かあればおっとり刀で駆けつけるのが大人というものだから、俺に遠慮はするなとは貴方の弁よ」
    「やれやれ。こう話してると、とてもじゃあないが重病に伏せた人とは思えないな」
    貝木はそんな風に参ったとばかりな台詞を言ってるが電話口からは笑ったような声も聞こえていた。
    「貴方はいまどこにいるの?そちらからはあんまり雨音、聞こえないわね」
    「ああ2つ隣町に来ている。お前の病気に関する資料集めにな。本とか嵩張るものを乗せとくためにレンタカーを借りた。昼飯を車中で済ませようとしたとこに電話が来たのさ」
    「それはご苦労様。ていうか車の免許持ってたんだ」
    「自家用車は管理に金がかかるから持たないけどな、使えると便利なもんだぜ。商談相手と密談する空間としても最適だ」
    「嫌な使い方ね…でも車に乗れれば、天候に縛られず移動できるってメリットは羨ましいかも。まぁ私の場合アクセルもブレーキも重みで踏み切れなだろうから、もっと酷い事故に繋がるかもしれないわね」
    考えたって意味等ない。漠然とした思考はざあざあと降り続く。
    私が車を運転して、誰かを乗せて出かけるなんてことは荒唐無稽な夢物語でしかないのだ。
    それも電話口で呟くと少し変化を感じるのだから、不思議なものね。
    「やる前から怖気付くなよ、事故は起こる時起こるものだ。乗る回数をこなせば周りの動きが見えて適切な車間距離を学べる。将来的に免許取るなら目一杯乗り回して使いこなせ、事故の話は起こってから考えろ」
    「あら、意外な考えを言うじゃない。正直貝木さんはペーパードライバーな印象だったけど。でも、そう言うなら貴方の運転」
    貴方の運転見てみたいわ。と言いかけ寸での所で止めた。まさに急ブレーキ。
    彼のハンドル捌きを見てみたくない訳じゃないけど、この流れで2人して出掛けるという展開自体はなんだか避けたかった。
    この男を戦場ヶ原家に招き、もう三カ月は過ごしてきた。体重を取り戻す手伝いとして雇われた不吉なスーツに身を包んだ男に寄せてるものは期待であり、信頼じゃないから。
    そう胸の内で唱える。

    (雑談が続いて最終的に徒歩で貝木が迎えに行くと話が整って電話は終わり)
    (自然と雨音は優しいものに変わっていたのでそっと窓辺に寄って外を見つめるひたぎ)
    -----
    窓からちらりと見える迎えが差してたそれは、80年代のオープンカーを思わせる艶やかに濡れた赤色の傘だった。
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