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    TA_Hseu

    掃き溜め

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    TA_Hseu

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    覇王線がある人
    血の滲むような努力をした結果成功すると言われている。

    『王様の右手/塚跡』


    「……なんだよさっきから」
    いったい何がそんなにお気に召したのか、隣で本を読む男は俺の右手をやわやわと揉み続けている。奇妙なマッサージが始まってかれこれ二十分ほどだろうか。
    「……」
    おい無視するな。
    ……しかしよくもまあ、器用に片手でページを捲れるものだ。ささくれ立った指の腹が手のひらを撫で、時折り気まぐれに硬い皮膚を押し込む。
    紛いなりにも恋人だ、相手からのスキンシップを悪く思うはずもない。何より、手塚がこんなに積極的に触れてくるなんてかなりのレアケースだ。何がしたいのかはわからなかったが、特別邪魔になるわけでもない。あえて拒む理由も思いつかなかったので好きにさせていた。
    「っ、」
    だが、その指が存外不埒な動きをすることを知っている体のは大人しくしていられないらしい。ゆっくりゆっくり時間をかけ、撫で、さすり、押し込み、握る。
    いらないことを想像してしまった。
    どうせただの気まぐれだろうに、手慰みにこんな触れ方をされてはたまったものではない。
    「……」
    人の気も知らずに俺の右手を玩具にしている男は相変わらず器用に片手でページを捲っている。利き手でもないのに大したものだ、俯き加減の鋭利な横顔はこちらを見ようともしなかった。人の言葉を無視するなよ、他のやつならとっくに追い出してるぞ。
    「意外と」
    「あ?」
    「触り心地の悪い手だなと」
    「……喧嘩売ってんのかテメェ」
    一部とはいえ人の体を好きにしておいて、妙な気持ちにさせておいて、挙げ句の果てにこの俺を無視した上でそれか。
    誰にでもそんな態度を取ってるんじゃないだろうな、本当に俺じゃなきゃ今頃寒空の下に追い出されてるぞ。感謝しろよ俺様に、秋の夕方は結構冷え込むんだからな。
    「はぁ、じゃあ離せよ」
    触り心地悪いんだろ。
    そう言いながら決して自分から振り解くことをしないのは、俺の甘さであり弱さだ。
    「悪いとは言ってない」
    「言っただろうが」
    「そうじゃない」
    「じゃあなん、」
    「ラケットを握る者の手だ」
    「は」
    荒れた指先が手のひらを撫でる。何度も肉刺を作って、血が出て、皮膚がめくれて、生まれ変わりを繰り返して硬くなった俺の右手。
    「なん、だよ……それ」
    手入れこそするが、女のように柔らかいわけではない硬い手のひら。そこに刻まれた皺の一本一本を辿るような指の動きがやけに優しいものに思えて、訳もわからず鼻の奥が痛くなる。
    「悪くない」
    さっきまでの焦りと怒りはどこへ行ったのやら。
    肌を撫で続ける硬く触り心地の悪い指先に、俺はもう、何も言えなかった。
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    TA_Hseu

    MOURNING覇王線がある人
    血の滲むような努力をした結果成功すると言われている。
    『王様の右手/塚跡』


    「……なんだよさっきから」
    いったい何がそんなにお気に召したのか、隣で本を読む男は俺の右手をやわやわと揉み続けている。奇妙なマッサージが始まってかれこれ二十分ほどだろうか。
    「……」
    おい無視するな。
    ……しかしよくもまあ、器用に片手でページを捲れるものだ。ささくれ立った指の腹が手のひらを撫で、時折り気まぐれに硬い皮膚を押し込む。
    紛いなりにも恋人だ、相手からのスキンシップを悪く思うはずもない。何より、手塚がこんなに積極的に触れてくるなんてかなりのレアケースだ。何がしたいのかはわからなかったが、特別邪魔になるわけでもない。あえて拒む理由も思いつかなかったので好きにさせていた。
    「っ、」
    だが、その指が存外不埒な動きをすることを知っている体のは大人しくしていられないらしい。ゆっくりゆっくり時間をかけ、撫で、さすり、押し込み、握る。
    いらないことを想像してしまった。
    どうせただの気まぐれだろうに、手慰みにこんな触れ方をされてはたまったものではない。
    「……」
    人の気も知らずに俺の右手を玩具にしている男は相変わらず器用に片手でページを捲っている。利き手でもないのに大 1075

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