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    msyesterday_029

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    msyesterday_029

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    ほくさい不在の北玲 冒頭

    子どもたちの挽歌 夜明け前でも体を動かしていれば全身に汗が滲む。そういう季節になりつつあった。午前五時の裏庭で一心に地面を掘っていた玲央は、ふとシャベルの柄のぬるつきに気が付いて手を放す。蒸し暑さで普段より荒い自分の呼吸の音と、鳥の声、遠くのヒグラシ。視界の端のクッキー缶。土のにおい。五感が拾う刺激を非現実的に思って、玲央は少しぼうっとする。
    「早起きさんやなあ」
     服の裾でてのひらを拭って淡くため息をついたとき、下駄が土を踏む柔らかい音とともに朗らかな声を投げかけられた。びくりと肩を震わせて振り返り、玲央は「なんだ、兄貴か……」と気の抜けた笑いを浮かべる。
     眉を吊り上げた依織が「なんだとは何や」と笑い返す。
    「こォんな時間に裏庭で、テストの点でも悪かったんかいな」
    「僕がそんなヘマするわけないじゃ〜ん。なんでもないからー、兄貴そろそろ寝ないと、今日のお仕事大変なんじゃない?」
     手元のクッキー缶を体の後ろにさりげなく隠した玲央の言葉に目を細めて依織は足を進め、穴のかたわらにうずくまる玲央の正面にしゃがんだ。そうして、玲央の瞳がかすかに翳るのを見てとり、穴を指して口を開く。
    「人に見られたらおしまいなんちゃうの」
     玲央は思わず大きく息を呑んだ。依織の指摘の通りだったからだ。依織がことりと首をかしげて「やっぱりなあ、俺の聞いた時はそうやったんや」と言う。なにか懐かしいものを思い出そうとするように、瞳が遠くを見るのを見た。
    「……誰から聞いたの? なんで?」
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