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    msyesterday_029

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    msyesterday_029

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    ピアス開け合うバディ匋依

    2021.12.03 お前のための何にでもなりたかった。そういう自分を覚えてる。
    「呆気ねえほどすぐ終わるって兄貴たちは言ってた」
     依織がピアッサーの包装を開けながら言う。
    「だったら安ピンの方が面白ぇかもな」
    「おい、俺は御免だぜ、旦那?」
     俺が肩をすくめてみせると依織は仕方なさそうに笑ってピアッサーを取り出した。手の中に収まる、大したことなさそうな白いプラスチック。それを渡される。受け取って眺める。緑の石がついてる。
    「じゃあ、頼んだ」
    「ああ」
     ウェットティッシュの残骸がゴミ箱に積まれてる。依織の耳たぶに初めて触った。その日。その瞬間。少し冷たい、依織の体の端っこをつまんで固定して、ペンでマークしたところにピアッサーを合わせる。曲がってないかちょっと離れて確認してたら依織が小さく笑った。いいよ、そんな几帳面にしなくて、って言われて、ムッとしたのを覚えてる。
    「お前のことならちゃんとすんだよ、俺は」
    「はは」
    「……やるぞ。動くなよ」
    「ああ」
     依織が目を閉じる。キスするみたいだと思った。何を馬鹿なこと、って思って手元に力を入れた。バネを押し込む。案外派手な音がして、手ごたえがなくなる。
    「……マジで呆気ねえな」
    「よし依織、右耳も出せ」
    「調子いい奴……」
     大したことなくて安心した。正直なところそうだった。依織の耳にピアスが刺さってる。俺の手で開けた穴が空いてる、あのとき腹ん中に広がった感情を何て呼ぶのか知らない。耳たぶをつまんで固定して「行くぞ」って言って、依織がまた目を閉じる。硬い音がして目が開く。やっぱりなんてことなさそうな顔をしてた。
    「痛くねえのか?」
    「痛いより熱いって感じだな。じんじんする」
    「ふーん……」
    「じゃあ、次は旦那だ」
     依織に耳を触られる。ちょっと見つめ合ってから目を閉じる。自分が依織に開けたときには思いもしなかったのに、そのとき俺は儀式みてえだって思ってた。依織のものになれる、ような気がしちまった。頭の中に衝撃と音がキツく響く。目を開ける。依織が真剣に俺を見てた。反対の耳に手が移って、同じようにされて、なあ、俺は幸せだった。お前はどうだ。ピアスなんて本当は大したもんじゃない。カタギかこっちの人間かに関わらずそこらじゅうの奴が着けてる。なのにどうして、あの日俺たちはあんなに真剣だったんだろうな。
     お前の何にでもなるよ、って思った。そのときもう相棒で親友だった。恋人にも番犬にも主人にもペットにも兄貴にも弟にもなりたかった。お前に必要な唯一の存在なら何でもいい。何にだってなってみせる。俺はお前のもんだ。
    「……何笑ってんだ?」
     依織がつられたように笑いながら聞いてくる。「マジで呆気ねえなと思って」って言ったら、「言っただろ」って依織はまた笑った。幸せだったのを覚えてる。たかがピアスごときで。

     /Teenage Dream
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