■郷義弘刀に対する概念付与の実験記録基本方針
今後顕現される郷義弘作刀の刀の付喪神に、逸話を超越した概念を付与する。
目的は刀剣男士の強化と新たな能力の開発である。
開発根拠
【006】小狐丸・【008】石切丸・【162】祢々切丸など、逸話・名前に関係する範疇であれば、
刀の能力を超えた超自然的能力の発現にある程度成功済である。
先んじて【144】篭手切江に『夢』という概念を与えたところ、成功。
人の文化に対する目覚ましい意欲を見せ、今後の発展が期待される。
開発対象
【160】豊前江・【172】桑名江・【178】松井江
打刀として比較的能力が均質であり、対象としてふさわしい。
付与する概念
【160】豊前江:風。大気。あるいは天空。
【172】桑名江:土、大地。
【178】松井江:海。
豊前江には現状逸話らしい逸話が無く、2015年時点で所在が不明となっている。
そのことから、風の概念を付与する。
桑名江は農家にあった経歴があり、土との縁がある。
松井江は彼の経験した戦場と、海の縁が深いと言える。
意義
この実験の意義は大きいと言える。これが成功すれば、刀の付喪神にとどまらず、超自然の神、八百万の神の新たな創造の第一歩となる可能性を秘めている。
なんとしても、成功にこぎつけたい。
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〇月××日
【160】豊前江・【172】桑名江・【178】松井江に仮の身体を用意、魂を降ろす。
魂が定着していないため、まだ目覚めない。
〇月××日
【160】豊前江に『風』の概念を付与。状態安定。
仮の身体バイタルも安定。
『夢』を見ていることが観測される。
〇月××日
【172】桑名江に『大地』の概念を付与。状態安定。
〇月××日
【178】松井江の仮の身体と魂の定着が上手くいかず、状態は不安定。
『海』の概念の付与は見送ることとする。
〇月××日
【160】豊前江・【172】桑名江に『外部からの意思のような存在』の接続を確認。
実験は順調。
■月××日
【160】豊前江に異変。外見に変化はないが、仮の身体の体重が10分の1にまで減少。
肉体を紡ぐ霊力に異常を感知。
同日【172】桑名江、状態安定。
■月××日
【160】豊前江、手足の先が大気に『溶ける』事象を確認。
おそらく、自我の散逸が起こっている。
大気と存在の同化が始まりつつあり、付喪神としての形を保てないと思われる。
急遽、『接続』を遮断。自我の修復措置に入る。
同日【172】桑名江、状態安定。
■月××日
【160】豊前江、自我の修復は順調。手足の再構築、体重の安定。
【172】桑名江、状態安定。
【178】松井江に『海』の概念を付与。
■月××日
【178】松井江に『外部の意思のようなもの』の接続を確認、激しい拒絶反応。
大量の鼻出血、仮の身体の生命維持が危ぶまれる。
自我の著しい混乱、意識の混濁、これをもって松井江の接続実験は『中止』とする。
▽月××日
【160】豊前江、覚醒。自己の散逸は見られず、意識も安定。【144】篭手切江と面会。「嬉しい」という感情をあらわにする。
【172】桑名江、状態安定。目覚めず。
【178】松井江、身体の修復及び魂の修復に遅れ。自壊の恐れあり。
◎月××日
【160】豊前江、政府本丸にて他刀剣男士との通常生活を送る。おおまかに安定はしているが後遺症のようなものが見られる。
『風』への強い憧れ、同一視、「自分が存在しているかどうか分からない」と自己の存在の不安定さを訴える。
【144】篭手切江の存在により、その自己の不安定はある程度解消されている。
他の刀剣男士にも見られるが、郷義弘の刀は顕著に縁故の刀による外部からの存在強化が有効であると思われる。
◎月××日
【172】桑名江を『目覚めさせる』実験を行う。
桑名江は他の二振と違い、明確に名前を貰った逸話が存在する。
本多家と縁の深い【065】蜻蛉切を実験に参加させ、桑名江の意識に呼びかける。
◎月××日
【172】桑名江の意識、および『夢』の観察記録が消失している。状態安定の中で何が起こっていたのか。元から記録など無かったのか。外部の干渉か。
◎月××日
【172】桑名江、覚醒。状態安定。
桑名江の記録を担当していた職員が、退職を申し出る。
◇月××日
【160】豊前江、【172】桑名江、状態安定。
郷義弘の刀がお互いの存在を強化する傾向はここにも見られ、兄弟刀との分離不安のようなものすら感じられる。
【172】桑名江の提案により、魂の修復がいまだ遅れている【178】松井江へ、イレギュラーな接続実験を行うこととなる。
◇月××日
【172】桑名江・【178】松井江、魂を接続。
兄弟刀であるため、拒絶反応は起きない。
『夢』を見ていることが観測される。
◇月▽▽日
【172】桑名江、【178】松井江、同時に覚醒。
魂の混在は現段階で見られず、松井江の魂の修復は成功した模様。
#月▽▽日
【160】豊前江・【172】桑名江・【178】松井江、状態安定。
政府本丸の他の刀剣男士ともうまく生活できている。
【160】豊前江…後遺症が見られるものの、良好。
【172】桑名江…おおよそ良好。『大地』に『話しかける』様子が観測される。(以下数行抹消)
【178】松井江…おおよそ良好。『血』への著しい執着が見られる。これは逸話由来と思われる。
これをもって実験の大半を終了、経過観察とする。
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刀剣男士への逸話を超越した概念の付与について。
あまりに概念が抽象的であり巨大である場合、刀剣男士自身の自己が取り込まれ、散逸してしまう結果が観察された。
【172】桑名江が自我を失わなかったのは、かの刀に名前のない期間の逸話が明確にあること、名前を与えたものと縁の深い刀剣【065】蜻蛉切がすでに顕現していたことが大きな要因と思われる。
【178】松井江は人で言う心的外傷後ストレス障害のようなものを発症している。これが逸話由来なのか、巨大な概念を付与されることで生じた多大なストレスによるものなのかは現在のところ不明。
自然物の概念の付与は、いまだ不確定要素が多すぎると言える。
今後実装が予定される【192】五月雨江・【200】村雲江は、人・あるいは人に親しみのある概念を付与することが望ましい。
また、明確な逸話を持つ【210】稲葉江に、大幅な概念の付与は必要ないと思われる。
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(桑名江の意識の観察を担当していた職員の手記)
『うまれてくるずっとまえと、しんでしまったずっとあとの景色を見ました。』
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