Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Ayataka_bomb

    @Ayataka_bomb
    推しのすけべすきよ
    リスト追加はプロフに成人済記載者のみ、リプかDMしてください。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 ✨ 😊
    POIPOI 119

    Ayataka_bomb

    ☆quiet follow

    捏造過多 フワジェニーちゃんとシガーが出会うだけ

    【よそのこ】【オリキシン】ある夏の幕間「あっ!」
     驚いた声をあげて、フワジェニーは前を歩くカナの肩を掴んで引き留めた。ふわふわと空飛ぶ布団の愛らしさを持つ彼女の表情は何かを警戒して険しい。昼間から大盛況の夏祭りの人混みの中、そっと声を潜める。
    「どうしたの?」
    「あ、あれ。あの人」
     カナの耳元まで顔を下ろす。フワジェニーの視線を追うと、こちら側へ移動する人混みの中に目をこらしてもどうにも姿形が滲むものがいた。このまま少し経てば近くをすれ違う位置を歩いている。
     気づかないふりをして逃げればいいのか、放置してはならないのか。非日常に片足だけでも突っ込んでしまったカナは咄嗟に判断できず、その場に立ち止まったままそれを眺めていた。人混みと空気に半ば溶けるように暈けたその男との距離が近づいて、とうとうくすんだ燠火の色をした視線が交わる。
     全体的に黒かグレーの衣服を纏った男は数歩離れた位置で立ち止まり、カナとフワジェニーを交互に見た。
    「ああ……この町にいないとはいえ、隣町から来ることもあるよな」
     男は、誤算だ、と納得したような含みのある微笑みを見せる。完全にカナを守るように身を乗り出して自分の後ろへ下がるように声を上げた。
    「下がってください。悪いおばけかもしれません……!」
     たしかにお化けかもしれない!カナは頷いて一歩下がる。不思議と3人の間に人混みが邪魔をすることはなく、緊張が静かに満ち始めていた。やはりお化けなのだろうか。放ったらかしにはできない。
    「お化けじゃないけどね。俺もゴウリキシンだ、人に化けているだけの」
    「こんな化け方見たことないです。一体全体どういう化け方なんですか……!怪しいです……!」
     警戒を解かず、カナを背にじりじりと力をためていく。
    「なんてことはない、ただみんなの目と世界を『俺は人間の姿をしている』って騙してるだけさ。幻覚に同意を得ていないゴウリキシンや親方には速攻でバレるのが難点だけど……詳しくは企業秘密だ」
     男はどこからともなく取り出した煙管から煙を一筋振り撒き、煙に「あてられた」空間が幻覚を現実に置き換え始める。揺れて軋み始めた地面から男は飛び退く。土俵とは全く異なる空間の展開でお互い以外の人の波は排除され、周囲を囲うように鳥居と座敷と霧の社がめちゃくちゃに組み立てられていく。その中でフワジェニーは瞬時にカミズモードへと切り替わり、上空へ舞い上がる。
    「カナちゃんそこにいて!」
     変質して揺れる地面にカナはしゃがみこんで耐える。遥か上空に舞ったフワジェニーは青白く帯電し、下方の男を見据える。そしてフワジェニーは、雷轟の神威を纏って垂直落下した。大地を抉るように放たれた蹴りの一撃は一瞬の閃光と一拍遅れた轟音を伴う。さながら落雷をその身で体現した攻撃は、ひらりと躱された。
    「凄まじい威力だ」
     チリチリと空気に走る放電をどういう原理か、煙で中和する。その間に土俵の景色に似て非なる不気味な物置のような結界は完成し、外界から覆い隠されてしまった。
     男の目の前に降り立ったフワジェニーの尻尾は蠍のように鎌首をもたげる。
    「初対面ですが、悪いこと考えてるのはわかります!……この空間、土俵を作れないようにしてますね?」
    フワジェニーが即座に飛翔した理由は二つあった。一つは突然形成され始めた結界に土俵を展開して上書きし、結界の完成を阻止するため。二つ目は土俵の展開が妨害されたとき、大元を叩いて止めるため。予想通り、上空で土俵は展開できず行動不能にする目的で攻撃を仕掛けた(土俵外での戦闘は禁止事項であるが、これは正当防衛になるはずだ)。
    「変に詮索されるわけにはいはかないんだ。困るから」
    「カミズモードにならないんですか」
    「ならないよ。なっても君たちには敵わない」
     怪しい態度を崩さない男の言葉を探る。
    「ここから出してください」
     尻尾に纏った電気でバチッと重い音を立てて威嚇する。背後には揺れが収まり立ち上がったカナの気配と、さらに結界中に染み渡る異様な生き物のような何かの気配がした。……何か仕掛けている。
    「1時間もそこで親方とじっとしてれば、安全に出られるよ」
     霧のように足元に漂う煙が蠢いた気がした。
    「1時間も!?」
     カナは愕然として絞り出すように呟く。
    「焼きもろこしも……鶏皮も……チョコバナナもでっかい煎餅もじゃがバターも食べてないのに……!」
    「今日のお昼のためにお腹を空かせてきたカナちゃんに、なんて酷い仕打ちです……!」
     男の方へ一歩踏み出す。
     その瞬間、ゆっくりと漂っていた煙が獣の姿をとって現れ、フワジェニーへ掴み掛かった。咄嗟に地面を蹴って後方へ──カナの側に飛び、煙の獣と対峙する。
    「言っただろう?1時間待てば安全に出れるんだって。大人しくしてればソレも君たちを襲わない。大丈夫、時間経過は外と変わらないからまだ屋台は楽しめるはずだ」
     獣に手を翳して煙の姿へ戻し、微笑ましいものを見るような目で一瞥する。男は煙に巻かれて姿を消した。
     しんと静まり返った結界内には霧のような煙が漂い、祠か社のような小さな建造物や畳が凹凸とした天井、床、壁となり部屋を形作っている。鳥居のような装飾がされた廊下も見えるが、同じように色々な建築物の要素を悪夢のように詰めためちゃくちゃな形だ。それだけでも違和感で気が狂いそうなのに、周囲に漂う煙のなかに獣が潜んでいる。それも、この歪んだ迷宮のような結界中に。
    「閉じ込められちゃったね……待ってれば出れるって言ってたけど本当かなー」
    「私たちが動かなければきっとあの煙の化け物はでてこないはずです。同じ神である私や、ましてや人間であるカナちゃんを本気で閉じ込めて飢えさせる意味は無いはずですし……多分じっとしてれば出れます」
     そっか……、とカナは頷き、ため息をつく。
    「お腹減ったなあ。早めに回ってみんなの分のご飯も買いたかったのに────」
    「じゃあ出ましょうっ!!」
    「出れるの!?」
    「出れます」
    「出れるんだ!!」
     思わず大きな声を出してしまい二人で周囲を確認する。煙の獣は出ていない。そっと声を顰めて、フワジェニーは根拠を解説する。
    「一瞬で密室の異空間を作るのってすごく難しいんです!私たちがいたのは道のど真ん中だから、道の延長として繋がりを維持したままここを作ってるはずなので……ざっくり言うと、この結界はちゃんと出口があって迷路みたいな形になってるはずです!」
    「すごい!詳しいねフワジェニー!」
    「えへっ……ちょっとですけど……ふふ」
     親方からの純粋な褒め言葉で照れ隠しの笑顔が満開になってしまう。満更でもない。
    「それと、さっき地面蹴った時の放電で、なんとなくの地形は把握しました。出口の方向も掴めてます」
    「すごーい!あっ、でも、あの煙の化け物はどうしようか。土俵出せないし」
    「襲ってくる煙の化け物は私が一網打尽にしちゃいます!ここでは神太鼓が打てないので、カナちゃんの側で神通力を受け取るしかありません。私の近くから離れないでくださいね」
    「わかった!」
     カナの片手を取り廊下に足を踏み出す。低音の歪んだ祭囃子が反響し、天井の畳の裏から、倒れた鳥居の隙間から行手を阻む煙の獣たちが現れた。しかし信じ合う親方がいる神に即興の使い魔は敵ではない。
     電気を纏った尻尾を振るい、真正面から飛びかかる煙の獣を一刀両断に切り捨てる。
    「一本道です。……走ります」
     迷路とは言ってもこれまた即興の結界。一瞬で外界から遮る歪みを視認させ、「道を伸ばした」だけのものだ。廊下は長く部屋にも続き内部に閉じ込めたモノを惑わせるが、それだけ。1時間待つよりも確実に早く脱出ができるだろう。
     カナの腕を引き、二人を包囲した獣たちを薙ぎ払う。電気を纏った尾を警戒して下がった獣には眉間に一突きして霧散させた。霧散した獣は即座には復帰しないようでその場に煙の形で滞留していた。
     包囲を突破したフワジェニーはカナを抱いて滑るように駆ける。入り混じった廊下の材質など関係なく、雷電の軌跡を残して疾走した。立ち塞がる獣の攻撃には毛布のマントを翻して躱し、あるいは切り払い、絡み付こうとする濃煙は放電して貫いた。穴の空いた障子は焦げ付き、畳は切り裂き、その役目を成さない鳥居は倒して獣を足止めする。
    「フワジェニー、あれ!行き止まり!?」
     カナが叫ぶ。前方にはずっと曲がったり上ったり下がったりしていた廊下の先は続いておらず、壁として生えた畳に薄汚れた襖が斜めに付けられている。
    「いいえ……出口です!」
     足元の煙を払い、脚に電気を纏わせる。助走をつけて襖を蹴り付け、その打撃を中心に走った電気が根を張った襖をこじ開けた。
     蹴り倒された襖の先へ勢いのまま飛び出でるフワジェニーとカナは、人混みの道路に転がり出た。フワジェニーに抱えられていたため転びはしなかったが。辺りは先程と変わらぬ人の群れのど真ん中で、祭りならではの喧騒で満ちている。
    「戻れた……?」
     スモードに戻ったフワジェニーをはぐれないように引き寄せる。異様な空間は跡形もない。客引きの声と祭りを楽しむ人の明るい響めきがこの場にはある。風に乗って甘い香りや屋台特有の炭火の匂いが流れてくる。戻ってきたのだ。
    「戻れた!」
    「出れました……!」
     脱出を喜び合い、再び手を取り合う。危機は脱して、無事に戻ってきた!これでお祭りを楽しめる!
     そして辺りを見渡す。行き交う人混みの中にあの怪しい男の影を探すも、煙の一筋すら見つけることは出来なかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍👍👍👍👍👍👍👍👍👍🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works