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    Ayataka_bomb

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    Ayataka_bomb

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    カンキーリャと彩ちゃんの幻覚

    【よそのこ】【オリキシン】目は口ほどに まるで部屋が丸ごと何かに飲み込まれてしまったかのような息苦しさと生温かさが、不快として押し寄せる。異変を感じ取ったカンキーリャの髪の間から紙片のような「お友達」がざわりと起き上がった。これがいつも通りの異変ならば気には留めなかったが、今日は何かが違う。友好的ではない。無関心でもない。敵というには曖昧な……強いて言うなら悪意が、彩とカンキーリャに突き刺さる。ペンを落とすように置き、問題集を解く手を止めて、空間そのものに威嚇するカンキーリャの手を握った。カンキーリャは生きたガラス玉のような目を向けた。彼女にそっと聞く。
    「外に出れるかな?」
    「だめなの。食べられちゃったの。でも私がいるから飲み込めないみたいなのー」
    「…………お口に含まれちゃったかあ」
     さてどうしたものか。
     "そういうもの"にちょっかいを出されやすい体質ではあるが、予兆もなく一瞬で隔離されたとは予想外。口の中では犯人を叩くことも叶わない。
     相変わらず気分は悪いが、カンキーリャの存在のおかげでギリギリ喰われていないということは、神様に手が出せない小物が相手であることは明白だ。
     窓と扉が蹴破られて遂に飲み込まれてしまうかは時間の問題だが。
    「困ったねえ……困った。噛み砕かれたらひとたまりもないぞ、私たちは」
     部屋の灯りが不規則に点滅する。がりがりと空気が軋む。血染めのような夕焼けが窓にべったり貼り付く画を横目で見ながら、頭を回転させた。だが、食べられそう、ではなく既に口の中なのだ。妙案は浮かばない。
    「カンキーリャはいい案ないかな?」
    「えー、うーん……」
     ざわめく髪を靡かせながら考える。可愛らしくうんうん唸りながら「作戦会議するの」と手を離してしゃがみ込んだ。お友達を総動員した文字通りの作戦会議だ。難しい顔をしてごにょごにょと話し合うと、丸い横顔がぱっと明るくなる。
    「思いついたの!食べられる前に、わたしが先に食べちゃうの!」
     立ち上がったカンキーリャはぬいぐるみのようなエビのお友達を彩に差し出す。
    「作戦を説明するの!まず、彩ちゃんはこの子を預かってて欲しいの」
    「うん。わかった」
     エビのお友達を受け取る。神の体の一部とも言える友達だ。カンキーリャが彩の側から離れて動く時、怪異から守ってくれるのだろう。
    「そしたら爪のお友達と一緒に窓の『くちのふた』をこじ開けるの」
    「ドアじゃだめなのかな……?」
    「ドアから出るとお家の中に『からだ』が出てきちゃうの。おうちが汚れちゃうのー」
    「カンキーリャは優しいねえ」
     褒められた彼女はえへへー!と声を上げて照れる。
    「ここを口の外にするんだね。窓は開けてあげようか?」
    「うーん、触ると危ないかもなのー。お部屋の真ん中で私を応援して欲しいの!」
    「わかった。カンキーリャのこといっぱい応援するよ」
    「お願いするの!」
     彼女は可愛い私の神様であり、誰よりその力を信じている相棒である。
     カンキーリャを信じる純粋な気持ちが鼓動を略式の神音とする。送り込んだ神通力でカンキーリャは光を纏い、いつも神相撲で見る幾分か頭身の上がった少女の姿が部屋の中に立つ。カンキーリャはベランダの窓に手をかけて、含み笑いを零した。
    「悪い子なの、彩ちゃん食べようとして」
     左手で窓を開け放つ。その瞬間に、構えた右手が窓の空を突き破った。膜のように張った透明の中空が棘の爪で引き裂かれ、まるで断末魔のように部屋がのたうちまわる。
    「くうっ……!」
    あまりの揺れに立っていられず、エビをぎゅっと抱えてカーペットに膝をつく。一瞬の縦とも横ともつかない大揺れの後、カンキーリャはベランダから赤い夕日の空へと跳躍した。
     その空には部屋を吐き出した異形の魚(のような形の何か)が巨体を弱々しく揺らしていた。
    「食べれなかったね!わたしのこと!わたしの大事なかわいい彩ちゃんだからね、彩ちゃんも食べちゃだめなの」
     翻したスカートの下から突き出した硬質の尻尾が、銛のように魚の尾鰭を貫く。意志の有無すら判断できない魚は身を捻り、牙を剥いた少女神を弾き飛ばした。
    「カンキーリャ!」
     大丈夫なのー、という柔らかい返事をして、屋根の上にふわりと着地する。怪我もしていない様子で、ほっと息を撫で下ろす。
    「うーん、わたしの言ってること難しいみたいなの。ならわかるように教えてあげるの」
     ──二枚貝を彷彿とさせる楽器の化身。神の威厳を薄く纏って顔を上げた。
     爪のお友達も、尻尾のお友達も皮膚の下やスカートの影へと滑り込む。可憐な瞳が眼窩に住まう友達と一緒に、魚を捉えている。
    「あなたは私を食べれないけど、わたしはあなたを食べれるの」
     内臓を開かれてなお、彩を狙って回遊する愚かな魚は獲物でしかない。
    「あなたはとってもお邪魔虫だけど────」
     彩を守る神へ、魚は考えも無しに食らいつく。
     カンキーリャは屋根を蹴り、魚の顎をひらりと躱して長いレースのような背鰭を掴み引き寄せた。
     そして時間が停滞したと錯覚する短い時間。長い黒髪が腕のように、剣のように、歌のように、牙のように囁いた。
    「センブラ・ブォノ」
     カスタネットが口を閉じる。
     愛らしい黒い髪の顎が、帯状の牙となり異形の魚を覆い尽くして咀嚼する。
     一瞬の後、ぱっと解いた髪を風に泳がせながら、カンキーリャはベランダに舞い戻った。引き裂かれた魚の残滓が空気に弾けて、溶けて、夕日の空へ流されていく。
    「彩ちゃんを守れたの!大成功なの!」
     彩の下に戻ったカンキーリャはくるくると踊るように全身で喜びを表しながら、返されたエビと手を繋いでスキップをした。
    「ありがとう、カンキーリャ。助かったよ」
    「わたしも彩ちゃんがたべられなくてよかったのー」
     カミズモードを解いたカンキーリャは、彩の座った椅子の側のクッションへ埋もれた。
    「ふふ……。ところで……食べたのかい?あのお化けは」
    「食べないのー。中身がないの。カタチを重ねた蜃気楼は骨も皮も無いの」
    「じゃあ……ちょっとだけお菓子を食べようか。カンキーリャもお友達も、疲れたろう?」
     机の端に寄せていた菓子入れを手に取る。「助けてくれたお礼だよ」と言うと、恥ずかしそうにカンキーリャは言った。
    「えっ、でもー、わたしは彩ちゃんが食べられちゃうのやだなって思っただけなの。守りたかったのはわたしの気持ちなの」
     もじもじと、クッションに口元を埋めながら体を揺らす。
     しかしカンキーリャは──その体から顔を出している友達も含めてみんなが──お菓子の気配に目を輝かせていた。
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