ご褒美 ライブの余韻と高揚感が後を引く中、二人でアパートに戻ってきた燐音とニキは一つのベッドの上で絡み合っていた。
「んっ……、ふ、んぅ……」
「ん……」
ライブ会場でシャワーを浴びてきたはずなのに身体はすっかり熱を帯びて、汗ばんだ肌が触れ合う。それだけで、気持ちがいい。
「は……、ニキ……」
「ぁ……、んむ……」
唇を合わせながら、互いに身体に手を這わせていく。薄目を開けたニキは、己を組み敷いてギラギラとした鋭さで見下ろしてくる天色と目が合った。会場中の視線を奪って、ダイナミックで大胆なパフォーマンスで観客の心を鷲掴みにしていたその男が、今この瞬間はただ一人の恋人に、蕩けるような視線と溢れるほどの欲情をぶつけている。
(……なは)
ぞくりと、背筋が震えた。ひどく興奮して、たまらない。何度も熱を受け入れてきた肚の奥が、きゅうと切なく泣いた。
「ねぇ、燐音くん」
細身に引き締まった白い身体をまさぐっていた手を上へと這わせて、燐音の首へと腕を絡める。
「僕、まだライブのご褒美貰ってないっす」
酩酊したようにうっそりと囁けば、彼の天色がゆるりと細まる。獲物を前に、舌なめずりする獣のようにぺろりと自身の唇を舐めたその仕草にさえ胸が高鳴ってしまうのだから、どうしようもない。
「まァ、あげてもいいけど」
燐音は長い指をニキの顔へと這わせると、くいと顎を持ち上げて余裕たっぷりに口角を上げる。
「メルメルが言うには、ニキは俺っちの飼い犬らしいからなァ? なァ、お前を飼ってる主からのご褒美が欲しい?」
顎に這わせた指でこしょこしょと顎裏ををくすぐりながら、彼は挑発的に笑う。
「それとも、お前に惚れ込んでいる恋人からのご褒美が欲しい?」
ちゅ、とわざとリップ音を鳴らして顎下へと吸い付かれたニキは軽く首を竦めた。膜を張った瞳で彼を見上げれば、その天色は熱に潤んだまま獰猛な色を湛えていた。
「ニキ」
低く掠れた声で名前を呼ばれて、きゅうと肚が切なく鳴いた気がした。どっちを選んだって、彼はとびきりの夜を過ごさせてくれるだろう。
(どっちか、かぁ)
以前のニキだったら、片方しか選ばなかった。だけど、今は。Crazy:Bとして活動する中で、アイドルとしておなかいっぱいになっていく中で、空っぽだったニキの心には燐音が植え付けてくれた欲が芽吹いているのだ。
「どっちも、欲しいっす」
ニキは両手を伸ばすと、目の前の身体をぎゅっと抱き締める。
「ね、いいでしょ燐音くん」
彼の細い腰に己の足を絡めながら甘えるように囁けば、天色がすっと細められた。
「ったく、欲張りになったァ……ニキは」
言葉とは裏腹に彼は心底楽しそうな表情を浮かべると、ニキの身体を抱き締め返す。とくんとくんと高鳴る彼の鼓動を感じて、ニキは愛おしさで胸がいっぱいになった。