放課後の空き教室、瑪瑙は薊に頼んで個人レッスンをしてもらっていた。椅子に座ってこちらを見てにこにこと笑う薊に、薊の指導通り撮影のようにポーズをとり視線を薊に向けた。基本的なHackの使い方は分かっていた瑪瑙のため、そのさらにもう一個先のを薊は教えていた。暫くして椅子から立ち上がってこちらにやって来る薊。表情は相変わらず笑って瑪瑙を見る。
「うんうん、だいぶ表情よくなったよ。まぁ君は元から出来てたけどねぇ」
「まぁ僕ですし」
「ふふん、よく出来ました」
そういうといきなり薊は瑪瑙の前髪をわけ額を露わにさせると唇を当てた、いわゆるキスというやつだ。これが女性にしていたら思わず惚れるのだろう、だが瑪瑙は思わず薊を引き剥がし、ハンカチを取り出して額を拭いた。
「なにするんですか、スキャンダルになるような事なやめてください」
「拭くなんて酷いなぁ、ご褒美なのに。スキャンダルの一つは経験した方がいいよ?」
薊は目を細め笑っていた、もしかして誰にでもしているのだろうかと瑪瑙は少しのため息を吐いて、そして少しばかりの閃きと共にそっと薊に近づく瑪瑙。目を細め、口元を妖しく笑う。まだ十八歳だというのに目の前の少年はそうを感じられなかった、薊は思わず喉を小さく鳴らす。瑪瑙はそのままゆっくり手を伸ばし、薊の唇をそっと触る。
「……本当にスキャンダルならする場所が違いますよ? ……先生?」
「……」
薊が少し動きを止めたのを瑪瑙は見逃さなかった、ほんの少しHackを出したのだが、あの薊が自分に魅了されたということだ。それにどこか優越感が瑪瑙に芽生えるその時、薊は瑪瑙の手を掴んで言った。
「……ふーん? ……していいの?」
そう言って今度は瑪瑙の唇を撫で始める薊。大事なものを触れるように優しく撫でて手を離し目線を合わせる。アイドル時代と変わらない目が自分を見ていた、思わず引き込まれそうになったが瑪瑙はそっと掴まれた手を離してもらいそのまま自分の唇に指を当てて話す。
「生徒に手を出すつもりですか? ……いけない先生ですね」
「まぁぼくがやったらスキャンダルどころじゃないしね、やめておくよ」
やれやれ、と言ったように薊はさっと身を引いた。瑪瑙はそんな薊の様子が面白く、ニヤリと笑いながら話した。
「ふふ、残念ですね先生。この僕と出来なかったなんて。……そこまでしたかったんですか? 僕とキス」
そう言った時薊はまた瑪瑙と目線を合わせた、先程の目じゃない。と瑪瑙はすぐに気づく、薊のHackだと気づいた時には遅く思わず目を離せられなかった。薊は瑪瑙が自身のHackに魅了されているのに気づき優しく微笑み口を妖しく開いた。
「さぁどうでしょう……? けど君が卒業するまでお預けなんだから残念」
「……」
相変わらず薊は何を考えているのかわからない、薊はぱっと表情を変えてそろそろ下校時間だ、と瑪瑙に言って戸締りの準備をしだす。その横で瑪瑙はそっと頬を触る、少しだけ熱くなってるのに気づき思わず小さな舌打ちをした。